ドント

ラスト・ラン/殺しの一匹狼のドントのレビュー・感想・評価

3.6
 1971年。し、渋い……。男の……映画……。引退して浜辺の町で暮らしている、犯罪専門の老カードライバー。ある日9年ぶりに依頼を受け、ある犯罪者の逃亡の仕事を受けるが……
 冒頭、夜のガレージ、電球をひとつ付けて黙々とエンジンの点検を丹念にしてから、試乗とばかりに海沿いの道路を飛ばすジョージ・C・スコットの横顔からして老いた狼の魅力がにじむ。船を貸している漁師や娼婦との会話でもこの老人のどっしりとした安定感、と同時に何かが気にかかっている雰囲気がにじむ。流れ出るのではない。にじむのだ。静かに、じんわりと。
 この老人が何をしに行くのか、誰を何処へ運ぶのか、は先に語られることはない。追々わかっていく。中途で予定変更やトラブルも起こるがそれらの伏線のようなものはない。そして主要キャラ3人はそれぞれ策を練ったりなんだりするが、本心はわからない。わからないまま徐々に、話と人間関係と車は先へと進んでいく。ちょうど人生のように。
 カーチェイスやスリリングなシーンはある。今から観れば大層地味に見える。全体に派手さはなく、引き締まっていて、余計な装飾がない。エモーショナルな場面もない。しかしだからこそ目を惹かれる。心身にじっくりと染み渡ってくる。「俺はまだやれるか? やり通せるか?」と思っている老人の生き様と引き際が浮き彫りになっていく。
 演出にも浮わついたところはなく、丹念に折り畳むように撮られている。見終わると「ワーッ面白かった」などとテンションが上がるのではなく、息をひとつ吐いて深く頷くような、そんないい映画である。「男の映画」とはいかにも古い表現だが、そうとしか言いようがない。
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