ミシンそば

悪童日記のミシンそばのレビュー・感想・評価

悪童日記(2013年製作の映画)
3.7
亡命作家クリシュトーフ・アーゴタ(アゴタ・クリストフ)原作小説の映画化作品。
何か…すごいもん観た、そんな雑な感想がまず浮かぶ。
飽く迄、子供らの狭い主観で物語が語られるのに、十戒の「汝、殺すなかれ」を誰も守らない戦時下の時代にあってはそれがどこまでも正確にありのままに伝えられてる。

周囲との関係を断ち、魔女呼ばわりされてる意地悪BBAのもとに疎開し、そこでBBAによって労働に従事させられ、当初の両親の言いつけ通りに強くなろうとする双子の様は、何かズレているとも感じられるが戦時中に無い頭でひねり出した、たった一つの冴えた答えなのだろう(そのおかげか、終盤のあるファイトシーンでは大人の男相手に結構善戦できてる)。

双子はそれほど顔は似ていないようにも感じられるが、所作はお互いに完コピしているので本当に双子のように思えてくる。
もう一回言うけど、この映画はほぼ全部がその双子の感じたままの所感を綴っている。
だから憎まれ役だけど次第に複雑な胸の内を発露させる婆ちゃんの心情も、隣の姉ちゃんの心情も、両親の心情も、靴を譲ってくれるユダヤ人の靴屋の心情も、明らかにそっち系のナチ将校の心情も、司祭館の美人な姉ちゃんの心情も、一切汲まない。
何なら語り手の双子ら自身の、心の奥底にあるところも巧妙に隠されている印象を受けるため、冷たく、淡々とした描写の終始も相まって、異質感は普段見る映画以上に感じられる。
戦争という異常環境(助けてくれるのがナチ将校と言うのも大分歪)が、双子を変えたのか、それとも切っ掛けになっただけか。
少なくとも自分の目には強くあろうとしているだけとも映ったし、双子たちの間には絆を結ぶべき対象(要するに鏡合わせのような双子たち自身)、それしか見えていなかったとも。

もう一個だけ言うと、憎まれ役の婆ちゃん演じるピロシュカ・モルナール、ところどころ人の良さを感じさせるような描写もあり、さすがに100本以上の映画に出演している大ベテランだけある貫禄だった。
語られることのないところに、見事に奥行きをもたらせているから、不思議と婆ちゃんの事は嫌いになれなかった。