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アメリカン・スナイパーのnacoのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
3.8
私は戦争映画が苦手です。今回、2時間観ただけでも、心がどこかにいってしまいそうになりました。では1000日間も戦場にいた人の心はどうなってしまうのか…それが描かれたのが今作です。

皆さんが素晴らしいレビューを書いてくださっているので、私はちょっと違う視点から書いてみようと思います。

今作で私が一番心に残ったのは、エンドロールで流れるトランペットの演奏です。あんなに哀しいトランペットの音色をこれまで聞いたことがありませんでした。

トランペットというのはたくさんの音色(表情)を持った楽器です。一番有名な顔はかっこよさや、きらびやかさですが他にも、燃えるような怒り、包み込むような優しさ、胸が押しつぶされそうな切なさ、こもった哀愁、繊細で儚げ…など様々な顔が浮かびます。

それらは普通、曲によりいずれかの顔を見せるものだと思いますが、今作は先に書いた感情、その全てが混じり合った深い音色だったように思います。
それが主人公クリスの生き様とぴたりと重なって感じ、胸が苦しくなりました。

伝説のスナイパーというのが彼の一番有名な顔ですが、イラク側から見れば悪魔。夫であり、父であり、他にもたくさんの顔を持ったクリス。
戦争がなければクリスは家族とどんな人生を送ったんだろう、そう思うと心が追いつきません。

そうしてトランペットは消え、無音のエンドロールへ入ります。
先にトランペットがあらゆる感情を代弁してくれたおかげで、おかしな言い方ですが私の心は空っぽで「虚しさ」のみを感じることができました。クリスはずっとこんな想いだったのかな…と思いました。
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