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マルケータ・ラザロヴァーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

マルケータ・ラザロヴァー(1967年製作の映画)
4.0
 舞台は13世紀半ば、凍てつく寒さのボヘミア王国。ロハーチェクの領主コズリーク(ヨゼフ・ケムル)は、勇猛な騎士であると同時に残虐な盗賊でもあった。ある凍てつく冬の日、コズリークの息子ミコラーシュ(フランチシェク・ヴェレツキー)とアダム(イヴァン・パルーフ)は遠征中の伯爵一行を闇討ちのごとく一瞬で襲撃し、伯爵の息子クリスティアン(ハリー・スタッド)を捕虜として捕らえる。王は捕虜奪還とロハーチェク討伐を試み、将軍ピヴォ(ズデニェク・クリザーネク)を指揮官とする精鋭部隊を送る。一方、オボジシュテェの領主ラザル(ミハル・コジュフ)は、時にコズリーク一門の獲物を横取りしながらも豊かに暮らしていた。彼にはマルケータ(マグダ・ヴァーシャーリオヴァー)という名の将来、修道女になることを約束されている娘がいた。国王軍の襲撃に備え同盟を組むことをミコラーシュに持ち掛けられたラザルはそれを拒否し、国王軍についたことで砦を焼かれ、娘のマルケータを拉致された。マルケータは残忍な仕打ちを受けながらも、自分のことを守ろうとするミコラーシュを次第に愛し始める。

 凍てつく冬の山奥で何と548日にも及ぶ撮影を決行したチェコ・ヌーヴェルヴァーグの伝説的名作は、一度観ただけではほとんど意味が分からない。それ程難解だが2回観れば圧倒的な映画の素晴らしさに打ち震える。中世の貴族間抗争とはキリスト教徒と異教徒との争いを意味する。ハレーションを起こすかのような圧倒的な白、修道院の白、雪の中の白の崇高さは異端の猥雑さを際立たせる。法の規律が確立されぬ中世では、強盗・殺人・誘拐などの蛮行が後を絶たない。まさしく人間はオオカミなど野生の動物と何ら変わらない欲望の中に足を浸す。男が女をねじ伏せようとした刹那が齎す危険性は宗教対立を巻き起こし、終いには領土の略奪という蛮行が繰り広げられる。人間の中に流れる血は果たして清いのか汚れているのかの流れは、人間の生々しい欲望と不可分と言える。自然の秩序を塗り替えんとする新しい人間的な秩序は人間の血を清く変えるように思えない。それ故蛮行の先では聖母の様な目をした女が男たちの狂気の中で佇む。迷える子羊たちの累々たる屍の列、その列の最後尾で女は信仰心にひれ伏しながら狂気の目を讃える。166分間の圧倒的な映像体験だ。
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