トミー・リー・ジョーンズ監督、脚本、主演の西部劇🎬です。


とても異色な西部劇だった・・西部ネブラスカの小さな集落で暮らす婚期の過ぎた女性が病で豹変してしまった集落の人妻３人をアイオワの教会まで馬車で連れて行く役目を負う。
出発直後に木に吊るされた悪党を旅の用心棒として同行する事を条件に助ける。

そして奇妙で危ない長い長い旅が始まる。


旅の女性役ヒラリー・スワンクの健気さに思わず映像に見入ってしまった・・そしてトミー・リー・ジョーンズの男気に心奪われる面白い映画でした。


でも最後は辛いものがあるストーリーではあった。


【追記】
メリル・ストリープは勿体無い使い方だった。

自身の初監督作である「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」にも言えることだが、トミー・リー・ジョーンズ監督は荒涼とした荒野を舞台に任務に挑む人間の物語を好んでますよね

そういう意味では今となっては貴重になりつつある西部劇時代の映画人なんでしょうね

ヒラリー・スワンクを主演に抜擢するあたりは役者としての円熟味を感じてしまいます

• #世界はドラマであふれてる

『ゴールデン・リバー』や『荒野の誓い』のように、西部開拓時代の実情を暴いた映画だと思います。アメリカは独立宣言以来200年以上も経ってようやっと、西部開拓時代のことをロマンティックに「盛る」ことを止めて、赤裸々に語れるようになったのかなあと思いました。

今回面白いのは、西部劇ではあまり取り上げられない女性の話が中心なことです。ヒラリー・スワンク演じるMs. メリー・ビー・カディは、自分で畑を耕し、家畜を操り、家に帰ってからは掃除をし、テーブルを飾り、料理をし、身なりを整え、ギフィンというビジネスパートナーの男を夕飯に招く。チェリーパイも作り、歌を披露し、そしてギフィンに「結婚しませんか？」と尋ねる。

Ms. カディは、真面目な働き者なので資産もあるし、しかもスーパーウーマン的になんでもできるのに、ギフィンは嫌だという。理由は、Ms. カディは “plain”で“too bossy”だから。

“plain”というのは「プレーン・ヨーグルト」などに使われる「プレーン」つまり何も足してない、素のまま、という意味なのですが、人に対して使われると「面白みのない」、女性だと特に「色気のない、可愛げのない」のような、魅力のない人という意味になると思います。”bossy”は “boss”に y がついてますから、「偉そうな」「人を小突き回す」いわゆる「オラオラ」？のような意味があるのですが、Ms. カディに対しては「しっかりしすぎていて、可愛げがない」という感じなのだろうなと思いました。

しかしこのギフィンという男（エヴァン・ジョーンズ）は、ブサイクなだけでなく頭も悪そうなのに、なんでこんな男を？と思うんだけど、Ms. カディは31歳、この時代には行き遅れたオールドミスで、必死に結婚相手を探している。アメリカの平均寿命を調べると、1820年で39歳、1900年で47歳。この物語の背景は1850年くらいなので、30歳というと今の50歳くらいの感じ？

これは気持ちわかりますね〜。現在は女性の「お一人様」も当たり前になってきているけど、この頃は女性が経済的に自立することもままならないし、Ms. カディのように自立できても、結婚できない女性はなんかおかしい、問題がある、などと、年配の女性から言われる時代でしたからね。

しかし一方で、結婚している女性たちが次々にメンタルをやられていきます。アラベラ・サワーズ（グレイス・ガマー）は、19歳と若いのに、3人の子供を次々とジフテリアで亡くし、シオリーン・ベルナップ（ミランダ・オットー）は、農業に失敗し、飢餓の恐怖があるのに妊娠、出産したせいなのか新生児を殺してしまい、グロ・スヴェンソン（ソーニャ・リッチター）はデンマークからの移民なのですが、旦那にDVされている環境で同居していたお母さんが死んでしまい・・・と3人３様の理由で精神を病んでしまう。

この女性たちの旦那がなんとも情けない。アラベラの旦那（ジェシー・プレモンス）はまだ21歳で子供、ベルナップ（ウィリアム・フィクナー）は、いい加減な男で、だから農業失敗しちゃう。スヴェンソン（デヴィッド・デンシック）は、お母さんと同じベッドで寝ている奥さんを、お母さんの隣でレイプするというDV男。

街の牧師を務めるダウド（ジョン・リスゴー）が集会を開き、精神病の人をケアしてくれる教会に3人を連れて行こうと言うのですが、3人の旦那は行きたがらない。自分の奥さんなのに！ですよ。で、Ms. カディは自ら名乗り出て行くことにすると、旦那たちは逆らわない。ダウド牧師も「私が代われるものなら代わるんだが」と言うんだけど、彼にも代われない理由はない。それを言われた時、Ms. カディはちょっと軽蔑の込もった目でダウド牧師を見る。

撮影監督が『ブロークバック・マウンテン』をやったのと同じ人らしいのですが、この頃のネブラスカは本当に何もない平原が延々と続くだけで、美しい緑でもなければなんでもない。しかし、ただただ広い空と広大な大地になぜかエネルギーを感じるんだけど、それが怖くもある。

3人を連れて行く旅はネブラスカからアイオワ、隣接している州で、今なら車で５−６時間？それが６週間から８週間にも及んだらしい。しかも周りには何もない、インディアンが襲ってきても誰も助けてくれない、白人の移民たちも皆無法者の時代。男でも行きたがらない旅をしようとするMs. カディ。

トミー・リー・ジョーンズはいつ出てくるの？って思うんですけど、彼はジョージ・ブリッグスと言う、軍隊は怖いから脱走し、その後人の土地や家に勝手に侵入して「俺のもんだ！」みたいに主張する、詐欺みたいなことをして暮らしてきた人らしい。彼はそのせいで殺されかけるんだけど、Ms. カディは、自分と一緒に3人の女性をアイオワまで護送するのを手伝ってくれたら、と言う条件つきで助けてあげる。

ブリッグスは、命乞いをする時は「なんでもします」とか言うくせに、助けて貰ったら「精神病患者を６週間も護送するなんて、大変すぎる！」とゴネたりする、なんとも調子のいい男なのですが、Ms. カディは、頭がいいし冷静なので、任務を遂行したら300ドル払うと約束することで、ブリッグスを旅に連れて行く。

この道中に様々なことが起こるのだが、それがこの当時の厳しい生活環境を描いていて、面白かったです。ただひたすら時系列に起こったことをダラダラ描写しているだけで面白くない！という意見も多かったのですが、私は逆にその訳わかんなさが「この話、一体どこに着地するんだろう？」と興味を惹かれ「長いな〜まだ続くんだ！」と思いながらも最後まで観てしまいました。

途中、ポツンと建てられた豪華なホテルの、業突く張りの支配人を演じるジェームズ・スペイダーが、めっちゃ太ってて汚らしい感じで、『僕の美しい人だから』のイメージしかなかった私には大ショックでした。それと、精神病患者をケアしてくれる教会の牧師の奥さんの役がメリル・ストリープなんですけど、なんかとってつけたような役だった。精神病の奥さんの1人を演じるグレイス・ガマーがメリル・ストリープの娘なので、彼女の出演時間を多くしてもらうために出たのでは？なんて勘ぐってしまう。

最後は賛否両論で、めっちゃわけわかんない！という人もいれば、すっごい好き！って人も多かったのですが、衝撃のネタバレなので、コメント欄に隠します。