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バイオハザード:ザ・ファイナルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.4
 2002年の『バイオハザード』から実に14年、6作目となる『バイオハザード』シリーズ完結編。アンブレラ社の元特殊工作員だったアリス・アバーナシーはT-ウィルスの唯一の適合者として、一転してアンブレラ社に追われる身となる。彼女のDNAを採取し、彼女のクローンを次々に作るアンブレラ社だったが、『バイオハザードIII』では結局、彼女ほどの能力を持たざるクローン達が次々に廃棄される。失敗に終わったネメシス計画とは違い、アリス計画の実験対象となったアリスは謎のウィルス変異を遂げ、驚異の進化を遂げる。T-ウィルスを打ち込まれ、恐るべき進化を遂げたヒロインの未来は順風満帆に見えたが、突如、ウェスカーにより『バイオハザードIV アフターライフ』で能力の無効化が図られる。アクションに特化した『バイオハザードIV アフターライフ』、現実空間と仮想現実との間を往来した『バイオハザードV リトリビューション』を経て、今作では再び「レッドクイーン」に導かれるように、原点であり物語の始点でもある『バイオハザード』のアンブレラ社の巨大地下実験施設「ハイブ」に立ち戻る。しかし前作『バイオハザードV リトリビューション』での過去の人気キャラクターの乱造・乱発は今作のクオリティに少なからず影響を及ぼす。コバルト(ローラ)やいかにもな男勝りのアビゲイル (ルビー・ローズ)、クリスチャン(ウィリアム・レヴィ)、敵役でもチュウ司令官(イ・ジュンギ)ら印象的な新キャラクターが多数登場したが、個性の確立していない新キャラの投入はむしろ前作で行うべきであり、まったくの蛇足に過ぎない。

 今作は脚本上、3つのポイントを置き物語る。1つ目はT-ウィルスを漏洩したアンブレラ社の真の目的が何だったのかということ、2つ目は最終目的の裏に隠された開発の経過と重大な誤算(エラー)であり、最後の3つ目はアリス・アバーナシーの出生の秘密である。監督であるポール・W・S・アンダーソンはこれら3つの疑問にもれなく答えを出してはいるものの、その肝心の答えが映画を観終えた瞬間、あまり腑に落ちないのも事実である。その一番の問題点は、大どんでん返しを狙い、ラスト15分にそそくさと登場させた新キャラクターと、これまでのシリーズでアリスの一番の難敵であった敵役の随分あっさりとした死に他ならない。1作1時間30分強、これまでの5作でおよそ8時間弱もの尺をもって丁寧に描いて来た物語に、ラスト15分で新キャラクター投入というのはかなりの博打である。全ては脚本家であり、監督でもある想像主のポール・W・S・アンダーソンの匙加減一つなのだが、ジル・バレンタイン(シエンナ・ギロリー)やレイン・オカンポ(ミシェル・ロドリゲス)、カルロス・オリヴェイラ(オデッド・フェール)、クリス・レッドフィールド(ウェントワース・ミラー)らが登場しないフィナーレを許容出来るのかは、「バイオハザード」信者にとってかなり際どい判断になると言わざるを得ない。前作から14年を経て、再び襲いかかる「ハイブ」の罠。エイリアンじみたケルベロスやアジュレが再び一行を襲う描写はなかなか迫力があるが、ゾンビ映画としてスタートしたシリーズ第1作の威光はもはや見るべくもない。

 まるで『CUBE』のような迷宮に迷い込んだ者の底知れぬ恐怖を描いた1作目の密室の恐怖は、パーティが次々に殺され、たった一人ディストピアと化した未来社会への警鐘となる『エイリアン2』と同工異曲の様相を呈す。ジョン・カーペンターの『未来要塞』や『ニューヨーク1997』などのディストピア・サヴァイヴァルものの熱心なファンであるポール・W・S・アンダーソンは、エイリアンのスピン・オフ作である『エイリアンvsプレデター』を手掛けながらも、ジェームズ・キャメロンの80年代の未来志向と母胎回帰への影響が拭えない。今作においても燃え盛る溶鉱炉のマグマは『ターミネーター2』であり、コバルト(ローラ)は単なる日本市場への目配せだったにせよ、少なくともアビゲイル (ルビー・ローズ)の人物造形はジェームズ・キャメロンが理想とした鉄の女のイメージであるエレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)やサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)を見事に踏襲する。エイリアンのようなアンデッドたちの恐怖、廃墟となった巨大施設の底知れない怖さなど細部にまで及ぶ背景の緻密さ、エレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)とレベッカ・ジョーダン(キャリー・ヘン)との精神の共鳴など、シリーズは多分に終末思想ものの意匠を纏いながら、極端に前景化したヒロインと少女とをまるで『不思議の国のアリス』のように強く結びつける。だが『マトリックス』のようなバーチャル・リアリティと現実との妥協点、2Dや3D、4Dとの折り合いには依然として未消化な部分が燻る。シガニー・ウィーバーやリンダ・ハミルトンの正統継承者を演じたミラ・ジョヴォヴィッチは今シリーズで監督であるポール・W・S・アンダーソンと運命の出会いを果たし、後にレッド・クイーンを演じることになるエヴァ・ガボ・アンダーソンを産み落とす。「事実は小説よりも奇なり」を地で行くような出来すぎたシリーズ・ファイナルである。
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