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マッドマックス 怒りのデス・ロードのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 映画は冒頭、マックス(トム・ハーディ)の独白で始まる。かつて警官をしていた正義のロード・ウォーリアーだった男が妻と娘を殺され、自暴自棄の日々を送る。この主人公の設定はオリジナルの『マッドマックス』と親和性が高い。やがて武装集団ウォーボーイズに捕まり、彼らのアジトに幽閉される。核戦争後の近未来の世界ではウォーボーイズは輸血がなければ生きて行けず、ニュークスのための輸血専用捕虜となってしまう。このウェイストランドという土地を支配するのはイモータン・ジョーという人物で、『マッドマックス』の暴走族のリーダー、トゥーカッターを演じていたあの男である。すっかり老体になったヒュー・キース・バーンがダースベイダーのような防塵マスクをしながら、悪の親玉としてマックスを追いつめて行く痛快さが画面を支配する。近未来の極めてディストピアな世界の中で、ユートピアを追い求めて旅立つ主人公たちの姿はどこか『マッドマックス2』を連想する。ここではないどこかを目指すことはSFの根源的欲求であり、衝動である。あの傑作『マッドマックス2』の世界観が21世紀に見事にブロー・アップしたかのような広大な砂漠地帯で、追う者と追われる者のダイナミックなカーチェイスが繰り広げられる。

 この映画に難解なストーリーはない。また主人公は寡黙でほとんど台詞もない。マックスとフュリオサは自分たちのユートピアである「グリーン・プレイス」を目指す。もしそこが理想郷で無かったとしてもスピードの旅はずっと続いて行く。ここには全編速度を巡る物語しかない。映画は冒頭から2時間、ほとんど止まることがないスピードの応酬で観客を魅了する。まるでシンプルなサイレント映画のように画面上に映る映像だけが説得力を持って観る者に迫る。お婆さんのガンマン、Uターンするタンクロリー、見せしめに車前方に縛り付けられたマックス、巨大なサウンドシステムにサイバー・パンクなギター野郎、マックRそしてV8インターセプターなどこれまでのシリーズ全て観て来た世代ならば、思わずニヤリとするような愛情溢れるオマージュの連続に痺れる。トム・ハーディの寡黙で無表情な演技やスタントもなかなか素晴らしいが、それ以上に素晴らしいのは坊主になって文字通り身体を張ったシャーリーズ・セロンだろう。ただの運転手ではない後半のアクションにその苦労が偲ばれる。物語はいたってシンプルで淀みなく進み、敵・味方の区別が明確に図られ非常に見やすい。主人公の葛藤やフュリオサ、ニュークスのキャラクターの書き込みもジョージ・ミラーならではである。
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