あおは

名探偵コナン 異次元の狙撃手(スナイパー)のあおはのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

おそらく異次元の狙撃手は小学5年生のときに映画館で観た作品で、大興奮だったのを覚えている。
金曜ロードショーでやっていたのも録画して、最後のベルツリータワーでの戦いを学校から帰ってくるとすぐにテレビをつけて、何度も何度も繰り返し観ていたのも覚えている。それほどに好きな作品で、今こうして成人して観てみると、当時とは違った視点があったり理解度が深まったり、でもそのままコナンの世界があって、好きな心だけは変わっていなかったことに少し安心する。

改めて観ると、やはり赤井さんの赤井さんによる赤井さんのための映画だなと思う。『FBI捜査官 赤井秀一 異次元の狙撃手』が題名でもいいのでは? と思うほどに。とんでもないネタバレになるけれど。
異次元の狙撃手という題名も、2次元ではなく3次元でみたときに犯人のメッセージに気づけるという見方を変えるところから異次元の狙撃手と読むこともできるし、死んだはずの伝説の狙撃手という意味で赤井さんにかけて異次元の狙撃手と読むこともできる。後者の意味が強い気はする。

今作はベルツリータワー、現実で言うところのスカイツリーにコナンと阿笠博士、少年探偵団、小五郎のおっちゃん、蘭と園子が行くところから始まる。ベルツリータワーに連れてこられた高所恐怖症の小五郎がガラスの床に立って悲鳴を上げ、パニックになってエレベーターに乗ったと思ったら、さらに高い展望台へ行くエレベーターだったというユーモアたっぷりの掴み。そしてコナンの近くにいた男性が狙撃され死亡する。
ここでチラッと見つけた小ネタ。
スカイツリーの高さは634mなのに対して、ベルツリータワーの高さは635mと表示されていた。現実よりも1m高くしてきている(笑)。

そしてマズルフラッシュを見たコナンは狙撃位置を絞り、スケボーで追跡。ビルの前の交差点でライフルケースらしきものを背負った男を目撃し、犯人とのチェイスが始まる。
ここでのコナンのスケボーアクションも有り得ないほどにアクロバティックで、いきなり最高潮。スケボーから世良のバイクに乗り移り、爆発が起こり、追い込んだと思ったら追い込まれ、ここでFBI登場。キャメルの登場もジョディのドリフトも演出がかっこいい。

ミステリとしてもよくできた作品だと思う。
狙撃位置には薬莢とサイコロの謎が残され、容疑者をハンターに絞っていったらハンターが殺され、確実に仕留めるために軽い弾が使用されたはずなのに一度外れていることなど新たな謎が生まれ、ハンターの頭に弾丸が見つかり、片腕がいたと分かる。その謎が解けたと思ったら、カウントダウンと推定していたサイコロの目が、4、3、2、5と来て混乱に陥るが、3次元で見ることでシルバースターを見せたいという犯人の狙いに気づく。この情報を明かしていくところと謎が解けていくところのタイミングが絶妙で無駄がなく、とてもスッキリとしている印象。また犯人たちが結構悲しい動機を背負っており、そこにも感情移入できてしまったり、そっちで複雑な人間ドラマが生まれたりしているから、犯人はもっと冷酷な感じでも良かったのではないかなとも思うけれど、この悲しさが独特の余韻をもたらすのかな。

犯人であるケビン・ヨシノとのベルツリータワーでの戦いが本当にかっこよくて大好き。もう死んだとされるFBI捜査官しか撃てないというほどのロングレンジを撃った謎の人物。ハンターとケビン・ヨシノの回想でそのように紹介された人物がいて、それが誰なのかというとスクリーンに映るのは沖矢昴さん。阿笠博士の家の隣、工藤邸に住む大学院生。
ジョディとキャメルが車で走っていて、ジョディが助手席で赤井さんとの思い出を回想するシーンで、警察のシューターと軍のスナイパーはどちらが上かという話をジョディが振る。赤井さんは条件次第だと言い、近い距離だと、人質などを救うために犯人の急所を確実に仕留めないとならない警察のシューターが勝ち、長距離だと軍のスナイパーが勝つと話す。また心臓を撃ち抜いても人間は10秒は生きられるためその時間で人質を道連れにされないよう、犯人を即死させるために撃ち抜くべきところはただひとつ、脳幹だと赤井さんは言う。そして自分が生きている限りジョディにそんなことはさせないとも。
自分が赤井さんの名前を出したことで思い出させてしまい涙するジョディの姿を窓越しに見て、しんみりと厳つい顔をするキャメルが申し訳ないけれどおもしろかった。
そして、この赤井さんのセリフが見事にここで回収されてくる。展望フロアに上がったジョディとキャメルは歩美ちゃんを人質にとっている犯人を仕留めようとするが、最後に仕留めるのは昴さん。俺が生きているかぎりそんなことはさせないというセリフの伏線がグッと回収される。
また阿笠博士のメカも伏線として張られていて、最後で大活躍する。探偵バッチのモスキート音で歩美ちゃんの居場所を子どもたちが突き止め、旧型の暗視ゴーグルに光を投げつけて目を眩ませ救出するのもお見事。ここで蘭が犯人を倒そうとするも転んでしまい追い込まれるのも作りが巧い。さらに巧いと唸ったのは、犯人が旧型の暗視ゴーグルをつけていて、昴さんはスナイプできて、コナンは花火タイプのボール射出ベルトを持っていて、さらには軸足がだめになっているという状況。犯人を倒せる状況と不利な条件が同時に存在していて、かなり物語として巧いなと思った。
「この高さを利用すればいけるのか。いや、やるっきゃねぇ」
コナンの好きなところはこういうところなのです。できるかできないかじゃない。やるしかないという気概。
あのボウズなら何かを必ず起こすという赤井さんからの信頼もアツい。

そしてお待ちかねの。

「対象は沈黙、オールクリアです」
「ジョディ君からも連絡があった。ご苦労だった。また連絡する」
「……了解」

堪らない。これを聞くためだけに何度も観ているという人もいそう。
了解という一言に赤井秀一が死んでいたすべての時間を込めたセンス。素晴らしすぎて何度聞いても鳥肌もの。劇場がザワついたのも今でも忘れられない。

異次元の狙撃手は本当にクライマックスが大好きで、赤井さんの了解も大好きで、最後のほうに大好きが詰まっている作品。でも途中にも色々なアクションや謎解きがうまく散りばめられていて、そこも無駄なく楽しめる。
クイズを哀ちゃんに奪われた阿笠博士が、「わしのこれまでの言葉の美学があぁ」と嘆くところもかなり笑える。言葉の美学(笑)。ここでのワードチョイスがハマっていておもしろい。
ワードセンスで言えば、4つの狙撃地点を3次元で見たときに現れる台形をコナンが台形と言うのでなく等脚台形と言うところに言葉のかっこよさが光るところも、コナンならたしかに台形よりも等脚台形とより正確に言いそうで、そういう細かいところもこだわっているのかなと思うと、より感心させられる。
また京都府警の綾小路警部も登場し、ウォルツが机をバンっと叩くところでリスが後ろに転げ落ちるところも見逃せない(笑)。
そういう細かいところまで目を配ると色々な仕掛けが施されていて、すべての映画からすべてを拾いきりたいなと好奇心を刺激される。

今はアマプラで全作品無料で観られるから、この期間に再び観漁ります。
あおは

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