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恋するふたりの文学講座のakrutmのレビュー・感想・評価

恋するふたりの文学講座(2012年製作の映画)
3.8
35歳の主人公の男性が、母校の若い学生たちとの交流を通じて自分を見つめ直しながら前向きに進んでいく姿を描いた、ジョシュ・ラドナー監督・主演のドラマ映画。ジョシュ・ラドナーにとって、本作は『ハッピーサンキューモアプリーズ』に続く監督二作目である。

相変わらず「いい奴」オーラが出ているジョシュ・ラドナーが演じるのは、ニューヨークの大学に勤務する35歳の大学講師(もしくは職員)。恩師の定年退職パーティーでのトークを頼まれて、久しぶりにオハイオ州にある母校を訪れる。そこで20歳前後の学生たちと触れ合うわけだが、特に19歳の女性ジビー(エリザベス・オルセンがキュート!)とはお互いに惹かれ合う関係になる。その恋愛関係がメインプロットではあるけれども恋愛映画ではなく、中年に差し掛かりつつある男性の懐古と成長の物語という感じになる。なので、『恋するふたりの文学講座』という邦題は、本作の一面しか表現していないという残念なことになる。

ある程度の年齢になると、いつまでも若い頃のままの「自我」と年齢相応の振る舞いを求める「理性」の距離が遠くなってくる。本作の主人公は、いままで理性を重んじた言動をするわけだが、母校の学生たちや上の世代の人たちの葛藤に接していくにつれて、自我を大切にするように変わっていく。その際の小道具として、文学や音楽(などのリベラル・アーツ=教養)が作中で効果的に使われている。ヴァンパイアの小説をめぐっての対立なんかは、(ちょっと意固地すぎるが)二人の違いをうまく描写している。そんな精神的な成長物語が描かれていくのである。

監督デビューとなる前作『ハッピーサンキューモアプリーズ』はその良さがわかりやすかったが、本作のテーマはそこら辺が掴みどころがないので、見る人によって評価は大きく変わるだろう。かなり静かで地味な映画なことは確かである。個人的にはジョシュ・ラドナーが好きなので、どうしても評価は甘めになる。

なお、主人公の母校として撮影に用いられたのが、オハイオ州にあるケニオン大学というリベラル・アーツ・カレッジである。実際にジョシュ・ラドナーはこのケニオン大学の卒業生であることから、主人公の一部に監督自身が投影されているだろう。ちなみに、主人公が尊敬している英文学の教授役を演じたアリソン・ジャネイもケニオン大学の出身である。
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