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オール・イズ・ロスト 最後の手紙のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 男(ロバート・レッドフォード)は自家用ヨット「バージニア・ジーン号」に乗り、たった1人でインド洋に打って出た。70を過ぎての単独航海、男は誰の力も借りず、1人だけで大海原に冒険を試みる。だがスマトラ海峡から3150キロ沖。男は全てを失い、大切な人へ最期の手紙を綴る。ことの起こりは8日前。インド洋をヨットで単独航海中の男は、船体の横っ面を殴られた音で浅い眠りから覚める。船室に徐々に海水が浸水していた。ギョッとした男は甲板に出るが、海上を漂流していたスポーツ・シューズを乗せたコンテナが激突し、ヨットに横穴が開いてしまう。水浸しになった航法装置は故障し、無線もラップトップも使い物にならず、外との通信手段を全て失ってしまう。やがて穏やかだった海には雨雲が迫り、雷鳴が轟き、暴風雨が襲ってきた。波は荒く、激しい揺れにヨットは一回転する。船内で辛抱強く晴れ間を待った男の身体は大海原に投げ出される。かくしてヨットは壊滅的なダメージを受け、居住空間にも水が溢れ出した。船内の支柱に頭をぶつけ、気絶した男は目を覚ました時も浸水と揺れが止まらない。荒天用ジブを見つけかろうじてヨットを捨てることを決意した男は、食糧とサバイバルキットを持って救命ボートに飛び移るのだった。

 おそらく我らの男にとって生涯最期の旅になるだろう単独航海は、彼の予想を遥かに超えた厳しさを見せる。時に自然の脅威の前では、個人の力などちっぽけで脆い。事が起きた時の彼の冷静な対処から、ロバート・レッドフォードは海の男として熟練の技術と経験を持っていることは明らかなのだが、それでも時に自然はちっぽけな個人をひどく惨めにさせる。導入部分のロバート・レッドフォードの最愛の人への一人称の独白の後、話し相手がいない今作には台詞など出て来ない。かろうじて男が吐き出した「FUCK」の言葉があるだけで、気の利いた会話も緊迫感を高める音楽もない今作は、ただひたすらにロバート・レッドフォードの行動のみを映し出す。その原理はいたってシンプルながら力強い。生きようとする「人間の根源」に焦点を当てた物語は、自暴自棄になりそうな男を何度も奮い立たせる。熟練の船乗りでサバイバーを演じたロバート・レッドフォードのサヴァイヴァル術の説得力が素晴らしい。男は理詰めで、一つ一つの物事を秩序づけて考えながら、ただ一つ生存本能のみで動く。海底に沈みかけた男が覗いた世界の深淵、あえてあそこで終わらせたJ・C・チャンダーの手腕が効いている。
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