海

On Your Markの海のレビュー・感想・評価

On Your Mark(1995年製作の映画)
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わたしをかわいそうだと思う?あのとき、それまで何度も浮かべ続けては打ち消したその言葉に、あなたは言った。思わない。海ちゃんはかわいい。それはわたしが何年も、何年も待ちわびた言葉だった。人間はかわいそうのことをかわいいと呼ぶいきものだ。でもあなたは言ってくれた。かわいそうだからかわいいじゃなく、かわいいからかわいそうなんかじゃないと。わたしたち、おとなになると突然に、裸の顔やからだを見られることもふれられることもずっと少なくなる。数秒毎、数時間毎に、変化してるはずのわたしの心と体はわたしだけが知ってるものになって、お風呂の鏡にうつる自分の顔とからだをじっと見つめてみるとき、そうかこのからだは、このひとは、わたしは、もう女の子じゃない女の人なんだ、と気づいて途端に、少しさみしくなる。おとななんだ。長いあいだ、わたしはこどもだった。冬の夜、海辺をドライブするとき、いっぱいに窓を開けて息をしてみると、いつまでも隣に居る誰かが「寒いよ」と笑ってくれるものだと信じていた。下の名前だけでどこへでも行けて、手をのばせば誰かが握ってくれて、夜中思い出して抱きしめるような言葉をもらったりあげたりして、ホテルは眠るためにありキスはお休みの代わりにあって、歌っても踊っても、笑っても泣いても、自由で、それだけで、いつまでもそんなふうに生きていけると、それが許されると、信じていた。いつのまにか、そこから遠のいていた。わたしがわたしから一歩ずつ確実に離れていくたびに、一人になった瞬間もうこのまま死んじゃうんじゃないかってくらい涙がとまらなくなった。変わりたくなかったけど、変わってしまった。気づけばもうおとな。それでもわたしには、迎えを、すくいを、信じているだけの強さが、まだあるとおもう。歌いたい歌のリクエストがちゃんと入る場所が、海を泳ぐみたいに一緒に踊ってくれるひとが、背中の羽を摘み取らないでいられる世界が、うしなったものを全部また何度だってこのからだにかえしてくれる手のひら、指先、声とか顔のぜんぶ、その夢が、いつかわたしたちを待ってるに違いないの。そう信じているだけの強さが、温もりがまだ、あるとおもう。ずっと前、わたしにとって、このからだと心に与えられた感覚は全部、もっともっと、すごいものだった。わたしは変わっていく。勝手に傷つくし、わざと傷つけるし、いつか死んじゃうの、ちゃんと生きているから。だから飛び立たせて、永遠にして。でも見ていて。わすれないでいて。愛とは何だと思う?やさしい夢。幻ってこと?それを信じるってこと。目をつむって安心して、眠りにつくということ。
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