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愛の神、エロスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

愛の神、エロス(2004年製作の映画)
4.0
 1960年代の香港。仕立て屋見習いの青年チャン(チャン・チェン)は、美しい高級娼婦のホア(コン・リー)と出会い、一瞬で魅了され、恋に落ちる。最初に訪れた時まだ姿形を見る前、隣の部屋から漏れる吐息を耳をそばだてて聴いていた。お手伝いさんに呼ばれても最初はその声が聞こえないほど艶っぽい声に魅了された。傑作『花様年華』とは違い、2人は対等な出会いではない。まだ世界を知らない仕立て屋見習いと、パトロンの援助で豊かな暮らしをさせてもらっている年上の女性。身悶えする様な永遠の瞬間の後、チャンはホアに言われるがままに大人の恋の世界を知り、女性の美しさの一部分を知った。それ以来、ホアは彼女のリクエストに応えるように愛情を込めて仕立て続ける。彼女から声が掛かれば、一目散にアパルトマンの廊下を駆け上がる。扉一枚隔てた向こう側に彼女はいるが、男の想いは微妙にすれ違い、願いは果たされない。高圧的な態度で冷たくあしらうコン・リーの滑らかな指先。そして『花様年華』のマギー・チャンと双璧を成すような儚くも柔らかいボディ・ラインと透き通るようなうなじ。ホアの身体のラインすら見事に把握したチャンが仕立てた纏わりつくような生地の質感。ちまきの湿度に狂い、彼女が来ていた服のテクスチャーに心震えたあの日。クライマックスの微かなエロス。男は女の挑発的な手に導かれ、世界の素晴らしさを知り、情熱的な口づけと柔らかい手で主人に応える。

 2001年製作のオムニバス映画『愛の神、エロス』の一編として発表した短編『若き仕立屋の恋』のロングバージョンがこのタイミングで奇跡の1週間限定上映となり、シネマート新宿の最前ドセンターで心行くまで堪能した。公開は今週木曜日までなので、ウォン・カーウァイ・ファンは急いで。
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