あーさん

リアリティのダンスのあーさんのレビュー・感想・評価

リアリティのダンス(2013年製作の映画)
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初ホドロフスキー。
監督のことは、お噂でかねがね、、ぶっ飛んだ作品で有名だけれど、これほどまでに突き抜けていたとは。。
感動…というより、アハ体験?に近いような⁈
めちゃくちゃ面白い❗️

今作を観る前と観た後、絶対に価値観が変わってる!!

とにかく愛情の方向が間違っている(ほぼ虐待に近い💦)熱血な父親ハイメ(ブロンティス・ホドロフスキー)、全編オペラ調で(歌っていて)息子のことを自分の父親だと思い込んでいる)母親サラ(パメラ・フローレス)、そしてその息子のアレハンドロ(イェレミアス・ハースコヴィッツ)。
→この子が、いわゆる監督の子どもの頃の設定。

壮大な叙情詩のようなホドロフスキー一家の物語。

ややこしいが、監督の実の長男が父親役を、監督自身が時々おじいちゃんになり変わって登場、息子アレハンドロ(=昔の自分)の後ろから哲学的なセリフなんかを囁くのだが、それが何とも言えない深い味わいだったりする。

何と表現すれば良いのだろう。。
今作には、ホドロフスキー監督の全部、人生の全部が入っている。
それが呆気に取られる表現だったり、とてつも無く高尚だったり、、とにかく振り幅が凄いのだ。

例えば、、母親の偉大さを感じる印象的なシーン。
街でユダヤ人だから、といじめられ殴られて帰ってきたアレハンドロに母は、
"透明人間になりなさい。そうすれば誰も何も言わなくなる"と言う。
そして、母は実際にその店に出向き、一糸纏わぬ姿でその店の中を堂々と練り歩くのだ!!
"ほら、誰も何も言わないでしょ?"とばかりに…。
いやーこれは、ガツーンと来た。
言葉でもなく、怒りでもなく、悲しみでもなく、こんな風に子どもを納得させる母の賢さよ!
ボカシ等はなく、女盛りはとうに過ぎた(失礼!)母の全裸である。→ボヨヨン、デーン、どーだ!笑
店の人々は何故か全く母に気づかなくて⁉︎アレハンドロは感心して腑に落ちる。
物凄いインパクトを持って、こちらに提案してくるホドロフスキー節。
こういうのは如何かな?てな具合に。。

そんなこんなのエピソードがこれでもか!と続いていくのだが、時にゾワゾワする虫のイメージだったり、ペストにかかり烏合の衆と化した人々が施しをしようとするハイメに群がって滅茶苦茶したり、海の中の生き物が空から降ってきたり、四肢を炭鉱のダイナマイトで吹き飛ばされた障がい者達をハイメが蹴飛ばしたり。。
その背景には、ホドロフスキー自身が肌で感じてきた、何かとよそ者扱いだった故郷チリのトコピージャ、亭主関白・無神論者で厳格な父、宗教観、死生観、母の愛、等あらゆる想いがミックスされ、リアルとファンタジーがごった煮になったような世界が所狭しと繰り広げられている。

宗教的背景(スピリチュアル・禅)、
人種的背景(ロシア系ユダヤ人・チリへの移民)、
政治的背景(ナチス台頭・軍事政権・父はスターリン崇拝の共産党員)、
神の否定と肯定(神などいないと言い放つ父と、愛を持って奇跡を起こす母)…e.t.c.

言葉で書くと堅苦しいが、これらが彼らの人生を彩り、動かし、進んでいく。

なかなか書けなかったレビューだけれど、一つだけわかったことがある。
監督は、今作で父を赦すことにしたんだと思う。
後半は、父ハイメがある目的を持って仲間と旅に出るのだが、その旅は思った以上に過酷で、ひょんなことから馬丁になったり、記憶を無くしたり、拷問を受けたり、木工所で働いたり、あちこち放浪した挙句、ボロボロの姿で家に帰り着く。(この旅がまた奇想天外!)
そして、家族と再会したハイメは愛の力で自分を取り戻すのだが、様々な出会いと経験を経て、彼は角が取れて全くの別人になっていた。その父を、アレハンドロ(監督)は赦したのだと思う。

現実が変えられない時、人はファンタジーの中に救いを求める。
それが事実でなかったとしても、自分がそうだと思い込めば、それで良いんじゃないか。過ぎてしまったことを恨んだり、無理やり人を変えようとするよりも、想像力という魔法で、現実に手を加えてファンタジックにしてしまうのだ。
それが映画の力であり、自分を解放するセラピーなのだと監督は言いたいのではないかな。家族の再生を、この作品の中に見た気がする。
感情を抑え込むのではなく、大らかに包み込んで、手放す。
ホドロフスキー監督は、自分も人の親となり80歳を過ぎて、昔の自分の父親の気持ちに寄り添えたんじゃないかな。。
私にも思い当たる節があるから、わかるなぁ。

父との確執が永遠のテーマのベルイマン然り、ホドロフスキー然り。どんな風にアプローチするかで、全然違う作風になっているのが面白い。
シリアスで人間の本質に迫ったベルイマンも好きだけど、ぶっ飛びホドロフスキーも良いなぁ。
人生を振り返る所は、フェリーニのアマルコルドにも似ている。未見だが、ベルイマンならファニーとアレクサンデル?

まだまだ語り尽くせないホドロフスキー作品。。

この続きは"エンドレス・ポエトリー"で!


またまた、追いかけたい監督が増えた♪
あーさん

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