映画ケーン

ザ・ウォー・ゲーム(原題)の映画ケーンのレビュー・感想・評価

5.0


核兵器が使われた地からのドキュメンタリー



これまで色んな恐怖映画(ホラー、スリラー、ゲテモノ映画…)を観てきて、戦慄し続けて来たけど、多分「一番」が出てしまった。これまで観た映画の中で最も恐ろしい…

「もし、冷戦時に核兵器が使われたらどうなるのか?」を描いたフェイクドキュメンタリーで、一種のディストピアもの。
あまりのリアリティに最初は「え!?広島と長崎以外に原爆落とされたとこあったの!?俺の不勉強の為?」と疑ったけど、フェイクです。だから、ヤラセだったり誇張はもしかしたらあるかもしれない。
でも、ナレーションで説明している通り、ここで描かれる被曝の症状だとか、大量の死者ってのは間違ってはいないし、それによって起こる食料難だとか、暴動だとかには一定の説得力がある。

疎開から始まる。例え狭い部屋だろうが沢山の人数を住まわす様命令される。それに背けば捕まってしまう。ここでの警察が態度デカいんだけど、でも警察が悪い訳でもない。人命の為だからやむを得ない。そもそも核戦争という状況がそうさせている。

合間合間にインタビューが挟まれる。いかに市民が核兵器に対して無知であるかが分かる。それもそのはず、メディアは一切報道していないから。
ここは作られてるのかな、本当のインタビューなのかな…

核が落ちた時にサイレンが鳴る様に警察がその点検としてサイレンを試しに鳴らすシーン、シェルターを紹介して「もしここに誰か逃げ込んで来たらこの銃で撃つんだ」と言う男の生々しさ。核爆弾が落ちた時の閃光の恐怖(色が反転するっていう粋な演出)。その徹底したリアリティが凄い(カットが変わるから、その面でのリアリティは無いんだけどね)。

途中で学者みたいな人が言ってる様に、人類は地球を破壊出来るだけの技術を手に入れたけど、脳は石器時代のまま、である。科学の急速な進歩に対して、生物の進化は全然追い付いていない。
あまりにも強大な力を正しく使えるだけの知能を僕らはまだ持ち合わせていない、という事。「使わない」って選択が正しいのかもしれないし、平和利用が正しいのかもしれない。はたまた、僕らがまだ思い付いていない第3の方法かもしれない。
僕は、少なくともこれを書いてる時点では、平和利用には懐疑的。原発は事故が多いし被害もあまりにも大き過ぎる。核を平和利用する為に金と時間を沢山使うよりも、(核は使わないで)他のエネルギーを探したり、効率良く抽出する方法にそれらを使う方が良いと思う。次に、核を持ってるからこそ戦争をすると地球が終わっちゃう為に戦争が無い問題。日本もアメリカの核の傘の下暮らしてる。これに関しては難しいし、正直分からない。「人種越えて愛しあおうぜ」って思うけど、それは理想主義で楽観的過ぎるのかな。ネットも普及して、多様性も進んでるから仲良く出来ないのかな。少なくとも話し合いで決めようよ。

更に、この映画がただでさえ優れているにも関わらず、超優れてる点は警察側の視点も入れている所。警察が傲慢だったりして権力を横暴していたら「おい!どうなってんだ!」って思うんだけど、戦争中にはそんな事は言ってられない。核兵器によって街が破壊されれば、食料の生産等が止まり、それにより街から食料が消える。飢餓状態に陥った市民は暴動を起こし、秩序を守る為に警察はそれを止めなければならない。その為には少し乱暴な手段もやむを得ない。
この辺りの説得力が凄まじい。

あと、残念ながらも銃で撃たれる映像がカッコ良いんだよね(冒頭の長回しの移動ショットも)。『プライベート・ライアン』的なドキュメンタリータッチでの臨場感あふれる射殺シーン。(今作は「戦争映画」って程銃撃シーンは無いけど)こういう戦争で人が死ぬ描写ってカッコ良いんだよね。
『プライベート・ライアン』みたいな戦争描写をもうこの時代からやってたんだよ。

僕は「神なんていねぇよ」って思ってる無神論者だし、「映画」っていうフィクションでは神の存在がことごとく否定されるものの方が面白いと感じる(有神論者を否定する訳ではない。「祈り」とかの行為は心に平穏と安らぎを与えてくれるから)。
でも、今作での銃殺する所で神に祈るシーン見て涙が出た(ここで途中でインタビューを受けてた警察官が出てくるのはドラマチックで上手い)。人間は、生きるか死ぬかの境目という中で、しかも辺りを見渡せば文字通りの地獄絵図という中で正気を保つ為には心の平穏を与えてくれる「神」が必要である、という事が映像で伝わって来る。当時(冷戦以外で)殺された人もこんな感じだったのかな、と思うと涙無しには見られない。

この作品は当時の核への恐怖とか「(核兵器が)良く分かんないもの」として見られてる雰囲気っていう生々しさがフェイクドキュメンタリーとして映し出されていて、それでいて物語として、恐怖映画として面白さも古びていない、という凄い作品。

核の恐怖を文字で伝えるとかじゃなくて、映像で感じさせるところが今作の優れてる点。
ディストピアものとしての出来が良いし、恐怖映画としても素晴らしい!
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