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言の葉の庭のKientopp552のレビュー・感想・評価

言の葉の庭(2013年製作の映画)
4.0
 恋の物語りとしてのセッティングとしては、大人びた高校一年の男子生徒と、同じ高校で古文を担当する、27歳の女性教員という取り合わせは、余りに無理があるのではないか。その違和感を抑え込むために、筆者は、主人公の年齢を無視して本作を観ていた。ゆえに、男子生徒は、せめて高校三年生とし、相手方は、23か24歳の、他の高校の古文の新米教員として欲しいところである。であれば、現実味も増すのではないか。或いは、日本社会では、こんな現実味のある関係は、むしろ拒否されるのであろうか。であれば、こんな関係を描きたいためには、新海は、逆手を取って、むしろ現実味のない関係をセッティングしたのであろうか。

 一方、主人公・秋月孝雄の回りの人間模様も興味深い。母親は、47歳の大学職員で、離婚経験者である。若作りにして、一回りも年齢の若い恋人を持っていると言う。26歳の兄は、恋人と同棲するために家を出ていくと言う。保守的倫理観の持ち主からは、母親が「だらしない」から、息子も「だらしない」結婚観を持っているのであると言われかねない、主人公孝雄の家庭環境である。であれば、孝雄自身が、自分の「恩師」に血道を上げるのも無理からぬことと、保守主義者はのたまうかもしれないが、こういう倫理的・道徳的摩擦もストーリーの中に取り込んだ新海の「勇気」を応援するものである。筆者は、単なる男女の陸み事に終わらせず、ストーリーに社会性を持たせるストーリーの書きぶりに共感する。

 さて、新海アニメのストーリー展開には、一つの特徴がある。それは、つまり、男女の出逢い、別れ、そして、その喪失感に由来する、離別の遠くからの「想い」の独白である。この特徴は、彼がアニメ作家としてアニメ界で有名になった、2002年の、ほぼ自作自演の短編アニメ『ほしのこえ』以来、新海アニメに通底するものである。ゆえに、本作でも、両主人公は、ストーリーの終盤になると、東京と四国に別れて住みながらも、手紙を通じて繋がりを保ち続けるという展開となる。その意味で、出逢い、別れ、そして、別離の中での繋がりの三位一体が、新海アニメの特徴なのである。
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