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真木栗ノ穴のひこくろのレビュー・感想・評価

真木栗ノ穴(2007年製作の映画)
4.1
西島秀俊によって成り立っている映画だと強く感じた。

書けない小説家が、アパートの壁に開いた穴から隣人のセックスを覗き、それを小説にしていく。
という、まるで江戸川乱歩作品のような変態的な趣向。
さらに、銭湯に行くのが日常的だったり、原稿用紙に万年筆で原稿を書いていたり、とよくわからない時代設定。

いつの話なのかも曖昧な混乱さ。
それを西島秀俊の演技が見事にカバーしている。
どことなく違和感を感じつつも、まあこれはこれでありか、と納得させられてしまうのだ。
だらだらといろんなことが起こっていく展開を上手く惹きつけているのも、覗きのシーンがコミカルに見えたり、逆に変態的な怖さを増していったりするのも、脚本の力というよりは、やっぱり圧倒的に西島秀俊の力によるところが大きい。

中盤になって、小説に書いた出来事が本当に起こりはじめると、映画は俄然と面白くなる。
隣りに住んでいる美女の正体は誰なのか。美女とセックスした相手が次々と不審死を遂げていくのはなぜか。
小説の結末では、真木栗は美女と関係を持とうとするが、それも現実になるのか。
そして、真木栗も死んでしまうのか。

メタ的な要素と真木栗の追い詰められていく様子が相まって、物語はどんどん佳境へと向かっていく。
なんとも言えない淫靡な感じが、その盛り上がりをさらに引き立てる。
が、オチは、人によっては怒り出しくなるような内容かもしれない。
ただ、ここでも西島秀俊の存在が、無理やりながらも強烈な説得力を生み出している。

役者の力でここまで映画をまとめ上げることができるんだ、と感心した。
とともに、西島秀俊がいなかったら、この映画は成り立たなかっただろうとも思った。
これは「西島秀俊の映画」だったと思う。
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