Ryu

海がきこえるのRyuのレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
4.0
主人公のナレーションに時折煩わしさを感じるが、決定的な好意を語らずに映画が進んでいくのが良い。むしろ最後にナレーションの中で「好きだ」的なことを言うのではなく、城の前で「こんな無駄話をリカコとしたかったのだ」というようなモノローグに留めておくのが良かった気がする。
映画の構成としても上映時間が短い中、実は思い出になってしまう瞬間が淡い色合いで、しかし確かな時間の流れをもって描かれている。宮崎駿的なジブリ映画のキャラクターの躍動感をもった動きではなく、若手制作陣のたどたどしさという点もあるだろうが、結果的に風景との微妙なズレの連続のような動きが記憶の中の動きという感覚を増長していてとても良かった。
コミュニケーションのデリカシーのなさや突発性がひと昔前の典型的な青春ドラマのキャラクターを想起させるが、必然的な内情が各々に抱いている結果だったのだ、ということが強調されることなく何気なく描かれている点が決定的に異なっている。キャラクターそれ自体に好意を単純に持てるような作劇になっていない点が現代の観客には響きづらいだろうと思った。

シティポップ、チル的な文脈で消費され、この映画が切り抜かれることそれ自体の是非はともかくとして、現代には存在し得ないメタ的なコミュニケーションを超えた人物同士の揺らぎがこの映画の中には確かに存在していた。
Ryu

Ryu