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海がきこえるのmuscleのレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
5.0
武藤の初登場で、奇妙な分割された擬似パンみたいなカットで正面から写される。その異質なカットが最後の大スペクタクル吉祥寺正面カットの伏線になっているのがすごい。なんつーシネフィル映画。
・フレームを変化させて回想に入るのMAD独自の編集かと思っていた。そんぐらい若者のアイコン化してる映画。たとえばそれはマッチングアプリのアイコンが杜崎の廊下で電話かけるカットで溢れていたり、主人公がBTSのジョングクに激似だが、『Euphoria』で歌詞とPVでオマージュしているとことか…。

飛行機に乗り始めることで物語が始まり、着陸して回想が終わり、駅のホームへ。これもまたのりもの映画。
東京での二泊目の夜には全く触れず、帰ってきてから武藤がどれだけ軋轢を過ごしたかを語りながら現在時制に追いつく。この速さと思いきり。たとえばこれが新海誠の秒速だったら2日目の夜をモノローグたっぷり見せることで村上春樹的な内面の担保になるのだろうけど、そういう自意識がない。松野の車での見送りにあっさり答える杜崎だったり、本当に主人公がいい奴に見えるように徹底されている。だからこそ、ベタに武藤が最悪なヒロインと言われてしまう。確かにタッチの割に甘くねちっこく高い演劇出身の坂本洋子の声はちょっと富野っぽさすらある。でも構造的に「先生が女だから…」と言われて激昂しつつも今でいうインセルっぽい言動を取りながらも、子供っぽいことをわかっている武藤を見て自分の子供っぽさを認識するって脚本で、なんてオトナな作品なんだ!!って思った。でもやっぱり最後に松野に好きなんだろ?って指摘されてからの表情が納得できない。物語的には納得させるように作っているのだけれど、その感情は「好き」であってるのか?という疑問が拭えない。吉祥寺シークエンスで綺麗に終わるもんだからその疑問も薄れるが。
最後の回想はいわゆる『アニーホール』回想だし、フラッシュバックの唐突な挿入も『アメリカ映画史再構築』読んだばかりなのでラルフ・ローゼンブラムっぽいなって思ってしまった。
作画的には確かに礒光雄のテニスパートが一番すごいと思った。ラスト、ハーモニー処理される武藤のアップ、マジで当時っぽい画面に見えていちばん萎えたのだが(映画的にはどれほど綺麗でも)、その後に近藤喜文スライドショーがはじまる。駿のまるを基調とする線というより頬の角張ったゴツゴツしつつ、肩や手で部分的な柔和さを強調するスタイルのほうがリアリティだとして当時から宮台真司が評価していてさすがだなと思った。
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