李氏朝鮮時代に成立した伝統芸能――パンソリの演目でいまもなお人気がある物語を北朝鮮で映画化したもの。
富裕層である両班の息子と、貧困層である賤民（キーセン）の娘の恋愛を描いてる。
文芸大作らしい重厚な作りで、時代考証、風俗考証にも気合が入っている。
両班と賤民の極端な身分の差がよく伝わってきた。
朝鮮の歴史ものは、暗行御史という最強のカードが使えるのがいいね！　暗行御史になったから、連絡できんかったというのはわかるようでわからないけどね。
ソ連など普通の共産国家だったら、富裕層は強制収容所送りになってる。いくら人気演目だからっておいそれとは扱えないんだけどね。ましてや、この映画では主人公でいいヤツだもんな。これが許される北朝鮮はやはりかなり特殊ですね。
ほか、ジャケにもなってる「首枷のヒロイン」が異様に映えてる。特殊性癖が開眼しそうになるんだけど、制作者側にそんな意図はなさそうだった。
長いけど面白かった。

北朝鮮の映画はどれも「偉大なる大将軍様」を讃える文言が出てきて嫌になっちゃうのだが,本作は時代劇であるためか,直接にはその科白(もしくはモノローグ)は現れない。ただ,クライマックスの展開など,体制側としては金日成伝説に擬えたいのだろうけど。とはいえ,これは朝鮮半島で有名な,それこそ日本でいうところの『かぐや姫』くらい有名な物語らしいので,本来はそういうプロパガンダ的意図とは関係のないものだろう。
全体的に,本当に80年製作か,と疑いたくなるくらい古色蒼然とした作品だが,作りが丁寧なので好感は持てる。人物描写もいかにも古典らしくはっきりと描き分けられている。中でも名家の使用人(日本でいうと雑色なのだろうか)の性格描写が出色で,身分の極めて低い存在ながら良き主人に仕えたためにのびのびと暮らしているという,作中で最も人間らしく自由に描かれたその魂を羨ましくさえ思えてくる。これは最近『かぐや姫の物語』においてかぐや姫の付き人の少女にも二重写しに見えた。人間が最終的に羨むのは結局こういう存在なのかもしれない。

春香が美人（『馬鹿たちの行進』『長雨』に出演してる人と同一かは不明）、型に嵌ったものが多いがところどころ絵になっている。シン・サンオク版より良いがイム・グォンテク版には劣る。

二部構成 おそらく1部ユ・ウォンジュン（兪元俊）、2部ユン・リョンギュ（尹龍奎）の監督と思われる。

原作邦訳 許南麒 翻訳『春香伝』（岩波文庫、赤 73-1）