ひこくろ

高瀬舟のひこくろのレビュー・感想・評価

高瀬舟(1988年製作の映画)
4.1
(原作は森鷗外の有名な作品ですが、読んだことはないのでその前提で)

なんとも不思議な感じの時代劇映画だと思った。

派手な殺陣があるわけでもなく、登場人物もほぼ四人と極端に少ない。
舞台は川を下る船のなかで、描かれるのはその船上での庄兵衛と喜助の会話だけ。
回想シーンを除けば、ゆっくりと進んでいく船と話をする二人の姿が延々と続く。
なのに、ちゃんと時代劇になっている。

職人たちのあまりに苦しい生活、生きていくことの過酷さ、尊厳死の問題、武士と町民の身分差、裁判の意義。
と、考えてみれば内容はかなり重い。
しかも、現実にはもう決定した事実しかなく、それらはあくまでも観客への「問い」の意味しか持たない。
すべてに納得している喜助と、不思議には思いつつもどうしようという気もない庄兵衛。
どこか他人事のような船頭。
会話劇と回想シーンは物語を変化させないし、解決もしない。
悩まされるのはただただ観客だけなのだ。

面白いなあ、と思ったのは、細かな描写で江戸時代の様子がちゃんと描かれていくところだ。
川べりを歩く町人たちの様子や、途中で寄る甘酒屋の屋台、回想シーンに登場する長屋の人間関係。
どれもに「時代劇」らしい「時代劇」要素がある。
そのほかにも、庄兵衛と喜助のやり取りから、武士と町民の感覚の違いがさりげなく浮き彫りにされたりもする。
高瀬舟の仕組みだけはきちんと説明されるが、それ以外はみんな描写や展開から読み取れるようになっている。
ここら辺の時代劇感覚は、観ていてとても楽しい。

ものすごく地味なのに、ちゃんと時代劇の雰囲気があって、しかもテーマはとことん重い。
わずか45分で観られる、とても奇妙な時代劇映画だ
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