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ブリングリングのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ブリングリング(2013年製作の映画)
3.6
 LAの高級住宅地、容疑者はプール側のフェンスをよじ上り、まんまと庭に侵入する。住宅地の明かりしか見えない真っ暗闇、女4人の列に1人だけ男のシルエットが映る。ルイ・ヴィトンのバッグに帽子、アレキサンダー・マックイーンのサングラス、クリスチャン・ルブタンのピンヒールらを片っ端から物色した後、容疑者たちは再び暗闇へと消える。カリフォルニア州カラバサス、今回の事件を「カルマによる学びの場」だと神妙な面持ちで話すニッキー(エマ・ワトソン)の表情には悪びれた様子など微塵も見えない。1年前、セレブなハリウッド・スターに憧れる少女ニッキーは妹のサムと共に、学校に行かず母親の自宅授業を受けていた。インディアン・ヒルズ高校に転校して来た冴えない青年マーク(イズラエル・ブルサール)は、そこでおしゃれな女子生徒レベッカ・アン(ケイティ・チャン)と出会う。優しく声をかけて来たレベッカに妹のような親近感を抱いたマークは放課後、彼女の誘いでビーチへと向かう。Rick Ross featuring Lil' Wayneの『9 Piece』にぶち上がりながら、2人は夏の避暑地ではしゃぐ。香水をプロデュースしたいという夢を語った少女の言葉に、マークは頷く。両親は離婚し、家庭教師センターで働く母親とは似ても似つかない不真面目なレベッカ、対するマークも映画の配給プロデューサーを務める父親を持つ比較的裕福な家庭の子供だった。

 今作はアメリカ合衆国で実際に起きた事件を原作にしている。「ブリングリング」という名の窃盗集団によるセレブリティ宅連続窃盗事件、パリス・ヒルトンやリンジー・ローハン、オーランド・ブルームと当時まだ籍のあったミランダ・カー、レイチェル・ビルソンらの家に空き巣が入った強盗事件は、信じられないことに全て本人たちがSNSに呟いた位置情報が「ブリングリング」たちに隙を与えていた。セレブリティたちの豪邸が簡単に拡散するプライバシーのない時代特有の犯罪を起こしたのは、マークという冴えない孤独な青年と、白人系の学校に通うアジア系の少女レベッカだった。SEXはおろか、キスも交わさない高校生カップルというか空気のような友人同士は、ボニーとクライドになるには余りにも風格が備わっていない。初めての罪は車を強盗し、車内に残されていた400ドルに味をしめたことで、それから2人は快楽に溺れるまま罪を重ねる(それでもマークは童貞のまま!!)。セレクト・ショップの「kitoson」で買い物し、部屋でマリファナを吸いながらダンスを踊るマザコン少年のBGMはEster Deanの『Drop It Low』である。セレブに憧れた孤独な少年少女たちの行く末は『ヴァージン・スーサイズ』の5人姉妹の悲しき末路ともリンクする。だが『ヴァージン・スーサイズ』に見えた少女たちへの郷愁は感じられず、ここでは徹底して登場人物たちを冷笑するソフィアの演出がこれまでの作品と異質な空気を醸し出す。
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