ちろる

はじまりのみちのちろるのレビュー・感想・評価

はじまりのみち(2013年製作の映画)
3.9
黒澤に並ぶ昭和の巨匠木下恵介監督の物語。
木下恵介監督のファンはもちろん、木下恵介監督の作品をまだ観ていない人も興味を持つ作品になっている。

周りが絶対に無理だと思うことをやり遂げてしまう木下の静かなエネルギーが、加瀬亮の雰囲気とマッチしていたし、説教じみた偉人伝にもなっていないリアリティのある作品になっていたのも好感度が高い作品。
内容自体は「陸軍」の上映が規制され作りたいものが自由に作れないという理由で一度映画界を去った木下が、病気の母親とともに疎開先にリアカーで山越えするロードムービーなのだけど、そのたった2日間のドラマに木下恵介という人間や、今後の彼の作品の原動力が詰まっている。

監督木下恵介を作ったのは周りの愛。
そして長閑な自然。
彼の作品の描く残酷な展開の中にも必ず人間の温かみを感じられるのはきっと彼の歩んできた環境にあったのかもしれない。
撮りたいものをすべて失って、夢を与えるよりもまずは食べるものの困窮した中で、空を見上げれば戦前と同じくらい晴れ上がり清々しい青が広がる。
哀しみを隠す人々の姿にも撮りたい美しい瞬間がある。
少しだけ出てくる二十四の瞳のインスピレーションとなる宮崎あおいの出演シーンも印象的で美しかった。

「陸軍」は陸軍協力の元作られた作品ではあるが、
最後の田中絹代の演技が女々しいと情報局から検閲されたことは全く知らなかった。
息子の身を案じ、息子と永遠の別れを覚悟する想いは女々しいのか?
母が息子が死の旅に向かう姿を悲しむ姿は罪なのか?
改めてまた劇中で流れたあのラストの映像を観たけどやっぱ田中絹代さんすごい。

まだ木下恵介監督の作品はまだ8作品ほどしか観ていないけれど、個人的な感想で言えば今のところ外しが全く無い。
全て素晴らしい。
木下家の協力のもとしっかりと忠実に再現されたこちらの作品を観てますます木下恵介監督のファンになったのでこれから残りの作品を観るのが楽しみ。
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