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ビフォア・ミッドナイトのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ビフォア・ミッドナイト(2013年製作の映画)
4.0
 ギリシャ・カラマタ空港、アメリカ・シカゴへ戻る息子のハンク(シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック)を見送りに来たジェシー(イーサン・ホーク)は、息子にお節介を焼きながら、名残惜しそうな目で彼の背中を見送るが、14歳で母親と暮らす息子には父親の愛情が負担で仕方ない。1人寂しく空港を出た父親の前には、携帯電話で誰かと話すセリーヌ(ジュリー・デルピー)がいる。SUV車の後部座席で仲良く寄り添いながらうたた寝する双子の姉妹エラ(ジェニファー・プライア)とニーナ(シャーロット・プライア)の姿。運転をするジェシーの隣には、彼の妻になったセリーヌが座る。風力タービンの交渉に苛立つセリーヌは相変わらず環境活動に夢中で、小説家として有名になったジェシーは避暑地の南ギリシャで3週間、時間に縛られない執筆生活を送っていた。アル中の妻と別れ、晴れてセリーヌと再婚したジェシーには双子の姉妹がいる。子供たちをロンドンにいるセリーヌの母親に預け、久しぶりに夫婦水入らずになった2人はハンクの帰国から険悪なムードを漂わせる。シカゴで新しい生活をスタートさせたいジェシーに対し、ようやく仕事が上手く行き始めたセリーヌは夫に従いアメリカへ行くつもりはない。9年前、2作目の『この時』を発表したばかりだったジェシーはその後、3作目の『途切れなく続く一瞬という芝居の演出者たち』を書き上げ、4作目の小説に着手しようとしていた。

 ハンガリーのブタペストから、パリ行きの列車に乗ったアメリカ人男性とフランス人女性の運命の恋を描いた『BEFORE』トリロジー・シリーズ完結編。前々作から18年、前作から9年の月日が経過した物語は、23歳だったジェシーを41歳の中年男に変える。時の流れは残酷で、前妻よりも運命の女であるセリーヌを選んだジェシーはたった1人の息子との密なコミュニケーションを絶たれている。マイペースなロマンチストのジェシーにとっては、高校生活の3年間を息子と一緒にいてやれないことを妻のセリーヌに愚痴りまくるのだが、逆にセリーヌにとってはその夫の煮え切らない態度にただただ苛立つ。老作家パトリック(ウォルター・ラサリー)に招かれた食事の席、SNSで愛を語り合う年下のカップルの姿に2人は自分たちの18年前の姿を重ね合わせる。南ギリシャの背景を舞台に繰り広げられる物語は、もはや小さな出来事の積み重ねを必要としない。監督のリチャード・リンクレイターと共に脚本に大きく関与したイーサン・ホークとジュリー・デルピーの即興による掛け合いは、ただ2人で歩くだけの瞬間瞬間を特別なものに変えてしまう。ビザンチン時代の協会でシンボルを舐めるような仕草を見せるジュリー・デルピーの茶目っ気、ホテルの部屋に入った瞬間、四十路の熟れた身体を露わにする彼女の女優魂。18年前、ウィーンの芝生の上で結ばれた2人は、ハンクの成長という人生の岐路に立ち、夫婦の未来を憂う。何度も部屋を出たフリをする女が本当に出て行った時、ジェシーはまるで18年前の列車の中のように、セリーヌに親しげに話し掛ける。ロマンチストな男と現実主義者の女の運命の恋は、18年を経てもなお燻り続ける。その姿にスクリーンの前で思わず涙腺が緩む。
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