おだ

陽だまりの彼女のおだのレビュー・感想・評価

陽だまりの彼女(2013年製作の映画)
4.2
猫とキスと偶然(必然)。
素敵なファンタジーだった。心を掴まれてしまった。ファンタジーなのはわかっているのに、こんな人生だったらなぁと想像してちょっと虚しくなるまでになっているので、完敗です。上野樹里さんの溢れ出る魅力に心を奪われた。

9年近く前の作品だったのか…。幼かった公開当時ではなく、今見ることができてほんとうに良かった。色んな伏線や作品を通してのメッセージ性に気づくことができたから。

まず猫について。
猫は映画の中によく現れる。動物、もっといえば気ままな動物である猫の持つ純粋さが、私たち鑑賞者にその場面に対してまっすぐな印象を与えてくれる。一般的には挿入シーンに猫が入るのに対して、この作品は主題のひとつに置かれているため、猫の持つイメージがより浮き彫りだった。


キスは作品を見れば瞭然なので、次に偶然について。
浩介に「偶然でも」に対する真緒の「偶然じゃないよ」のキスから物語のテーマが動き出した。冒頭シーンから奇跡や運命を待つだけの冴えない浩介が、真緒と再開して少しのシーンである。

偶然と必然が練り込められた場面所々に現れるが、私は2つのシーンにある種の共通点を感じた。

真緒には「全生活史健忘」という記憶障害があり、13歳までの記憶がない(と作中ではされている)。それに併せて、記憶がない期間に受けた刺激やストレスを潜在的に記憶しており、それが原因で真緒は体の不調をきたすかもしれないと、浩介は真緒の義父から聞く。

終盤、真緒の記憶を失った浩介は、真緒との日々に刻まれていたザ・ビーチ・ボーイズの「素敵じゃないか」を偶然耳にする。騒がしい宴会の中、ひとりでカウンターでお酒を飲みながら、浩介は静かな涙を流す。右手には幼き2本の引っ掻き傷が残っている。

この2つのシーンは潜在性の伏線を語っているように思う。潜在性が偶然と必然をつなぐ導線だったのではないだろうか。

真緒の記憶喪失は猫によって説明がつくが、真緒の記憶を失った浩介にも、わずかな記憶の片鱗が残っているのである。覚えていないが、どこか懐かしく悲しい記憶に涙を流す浩介は、偶然と必然の橋渡しをしているようだ。


映像の色彩と物語の作り込まれ方がすごく好き。この作品に、偶然出会えたことを幸運に思う。

ザ・ビーチ・ボーイズが出てくるなんて最高。「素敵じゃないか」は映画の副題なんじゃないかな。
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