半兵衛

未来への迷宮の半兵衛のレビュー・感想・評価

未来への迷宮(1935年製作の映画)
3.7
豪勢な別荘を舞台に、そこに住む高名な外科医夫婦と彼らに反発しつつも妻に惹かれる青年の三角関係が描かれる。

共産社会における階級差問題や、生き方についての議論が作品内で度々語られるが今見るとさすがに何を言っているのかわからない&当時の状況が把握しにくいので感情移入しにくい。なのでこの映画はそういう内容よりも、独自のアングルや編集、美術やソ連流コメディ演出を楽しむのがベストかも。

冒頭の外科医の妻が裸(!)に近い状態で海を泳ぐところを同居する男が覗くシーンなど小津安二郎か加藤泰かと思うくらいのローアングル撮影が所々で使用されているのが印象的だが、興味本意から使ってみたという感じで小津や加藤のようにこだわりによる美学を感じないのが残念。ただその流れで後半ローアングルでしかもワンシーン(カメラが後ろに下がる感じ)で病院にて患者が手術室に運ばれる→室内で手術の準備をする→その奥の部屋で二人の担当の医師が手を洗っているという流れを自然に撮っている名シーンがあり、技術の発展を感じさせる。それとローアングルを活かすためかかなり大がかりなセットが組まれている。

あとチャップリンまがいの同居人が別荘にいて、彼がコメディリリーフとして活躍するくだりも結構面白い。中でも夢の中でパイを投げられてしまうシーンは爆笑もの、パイを円盤投げの応用で投げるなんて初めて見たぞ。

それからアブラム・ローム監督は『ベッドとソファ』のときもそうだったけれど、三角関係に置ける人間関係に対するこだわりを強く感じる。そしていずれの作品でも男はおろおろして、それでいてプライドは高いというダメ男として描かれる。それに対して女は堂々として主導権を握っているのが印象的で、この映画でも女性が三角関係にけりをつけている。こういう人を真のフェミニスト思想の持ち主と言うのかも。
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