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ゼロ・ダーク・サーティのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ゼロ・ダーク・サーティ(2012年製作の映画)
4.1
 2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件の現場。ワールドトレードセンター・ツインタワーの北棟にユナイテッド航空175便が突っ込み、現場は地獄絵図となる。助けを求める人々の電話、対応に当たるスタッフは大丈夫ですよと被害者たちを励ます。それから2年後、サウジグループについての尋問の席、ダニエル(ジェイソン・クラーク)は身柄を確保したアンマルへの尋問を今日も続けていた。金の運び屋で、3000人もの命を無残にも奪った重要参考人。両腕は縛られ、すっかり衰弱した彼に熱湯をかける姿をマヤ(ジェシカ・チャステイン)は沈痛な面持ちで見ていた。巨額の予算をつぎ込みながら、一向にウサーマ・ビン・ラーディンの行方を掴めずにいたCIA本部。そんな手詰まり感の漂うビン・ラーディン追跡チームに、情報収集と分析能力を買われたまだ20代半ばの小柄な女性分析官マヤが抜擢される。マヤの奮闘もむなしく捜査は依然困難を極め、その間にもアルカイダによるテロで多くの命が失われていく。パキスタンのイスラマバードにあるアメリカ大使館、ジョセフ・ブラッドレイ支局長(カイル・チャンドラー)に対し、細かな捜査報告をするマヤだったが、彼はアメリカ政府との板挟みにあった。そしてついに、反目することも多々あったマヤの同僚ジェシカ(ジェニファー・イーリー)がテロの犠牲になる。アブ・アフメドの名前から遂にイブラヒム・サイードを手繰り寄せたマヤは、ホワイトハウスにビン・ラーディン掃討作戦を進言する。

 2001年のアメリカ同時多発テロ事件という21世紀を象徴するアメリカの病巣から、2011年5月に同時多発テロ事件の首謀者とされるアルカイーダのカリスマ的主導者ウサーマ・ビン・ラーディン殺害に至るまでのCIAの活動を、分析官マヤの視点から描いた作品は、『ブルースチール』以来、久方ぶりに女性主人公が前線で活躍する。タイトルは、午前0時30分を意味する軍事用語で、ウサーマ・ビン・ラーディンが殺害された時刻を示す。 最高指導者と神に全幅の信頼を寄せ、自爆テロをも辞さないイスラム系の人々を尋問に掛けたところで、ろくな確証など得られるはずもない。結果、アメリカ同時多発テロ事件の首謀者と断定されたウサーマ・ビン・ラーディンの拘束には10年もの歳月を要する。高校を卒業後、12年間CIAに勤めて来たマヤは最初は陰惨な拷問現場に顔をしかめるが、メンタルのやられたダニエルの代わりに皮肉にも現場で徐々に頭角を表す。煮え切らないブラッドレイとの対比、そして反目しあったジェシカの死、リストに載った事による脅しにも屈しなかった彼女の内面にあったのは、『ブルースチール』や『ハート・ロッカー』同様に、職業意識から来る極端な狂気に他ならない。化粧っ気なしの顔にジーンズ姿、常に携帯電話が手放せず、透明な壁に数字を書き込む女の凄味に、ジョージ(マーク・ストロング)やラリー(エドガー・ラミレス)、CIA長官レオン・パネッタ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)やアメリカ海軍の精鋭パトリック(ジョエル・エドガートン)らは次々に圧倒される。マヤの左目を伝う涙は、アメリカ側にもイスラム国側にも過度な思い入れを拒否するキャスリン・ビグローの過激な意思表明となる。
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