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暗夜行路のodyssのレビュー・感想・評価

暗夜行路(1959年製作の映画)
3.5
【戦前の日本の生活】

1959年制作のモノクロ映画。

原作はかなり以前に読みましたが、私は志賀直哉はあまり好きではなく、つまらない小説だというのが率直な感想でした。

とくにお栄という存在を理解できなかった。
今回、この映画を見ると、淡島千景が好演していて多少は分かった気にもなりましたが、それにしても十全な理解は不可能じゃないかと。
だって、お栄は主人公の祖父の妾ですよ。父の妾ならまだしも、祖父の妾となるとかなり主人公とは年の差があるはず。淡島千景みたいな女優が演じるとその辺があまり目立たないけど、小説で読むと全然納得できないんです。
それともあの時代の人はあれで納得したのかしらん。

志賀直哉は基本的に自分を主人公に重ね合わせて、その気分しか書かない人なんですよね。この映画では主人公は作家だということになっているけれど、それにしては執筆をろくにしていないし、出版社や編集者とのやりとりシーンは全然出てこない。こんなので作家としてやっていけるのかなあ。

原作小説では、そもそも主人公が何を職業とする人なのかもよく分からないんです。
この映画でも、お金の話がお栄の大陸行きの場面以外に出てこない。
それを含めて、この映画は主人公を社会的に捉えるのではなく、狭い人間関係の中だけで描いている。というか原作がそうだからなんですけどね。志賀直哉って、そういう人だったらしい。

たしかに妻の○○に、理性では許そうと思っても心がそれについていかないというのは分かります。人間ってそういうものですからね。
ただ、だから遠くの山まで出かけて行くってのが解決法になるのか。

・・・と色々疑問が湧いてくる映画ですが、主役ふたりが美男美女なのと、大正末期の(裕福な家庭の)生活が丹念に描かれているのが、令和の今になって鑑賞すると貴重であるという気はします。なのでこの点数。

でも私は小心者だから、山本富士子みたいなすごい美人を妻にしたら、虫がつくんじゃないかと心配で心の平安からは縁遠い生活になりそう(笑)。
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