鍋レモン

パフューム ある人殺しの物語の鍋レモンのレビュー・感想・評価

4.8
⚪概要とあらすじ
世界45か国で発売され、1500万部の売上げを記録したパトリック・ジュースキントのベストセラー小説を映画化。

18世紀のパリ。魚市場で生み捨てられたジャン=バティスト・グルヌイユは、超人的な嗅覚を持っていた。ある日、街で出会った女性の香りに取り憑かれた彼は、その香りを再現するために香水調合師に弟子入りする。やがて、パリでは若く美しい女性ばかりを狙った連続殺人事件が発生し...。

⚪キャッチコピーとセリフ
“その香りに、世界はひれ伏す。”

「この世に生きた証がないのと同じだ」

⚪感想
美しく醜く奇妙な作品。

映像から香りがするかのよう。

美女や花、自然もあれば、死体や虫、魚も。
魚市場、孤児院、皮なめし工場、香水のお店、ラペンダー畑、迷路、路地。

眩しさに目眩がする時もあれば暗さに美しさを感じる時もある。

ベン・ウィショーの素晴らしい怪演。
セリフや行動、表情と何から何まで不気味であり儚さがある。脚本に携わった方が語ったように「無邪気な天使と殺人者の両方を表現できる」がまさにそれ。
不気味、純粋、孤独、困惑、怒り、悲しみ、喜び、狂気、絶望、恋など様々な感情や様子をセリフなしに表現してしまう。

グルヌイユがただ香りを再現、保存するためだけに執着し行動する姿に恐怖を抱く。本当にただそれだけ。それ以上、それ以下もない。
主人公グルヌイユは驚異的な嗅覚を持ちながらも自身は匂いを持たない。それゆえ自分という存在証明を行えず誰の記憶にも残らない。

ベン・ウィショーは『白鯨の戦い』ではあんまり覚えがなくて、『クラウドアトラス』で観て好きになった記憶。脆さがありながら人間を超えた強さも兼ね備えた感じが好き。細すぎて心配になるけど。007でのQ課長としての活躍も気になる。

主人公はそれほど喋らないのでナレーションで進むのが良い。

ラスト30分を除けば5点でも良いぐらいの作品。驚きの展開過ぎてついていけなくなるけどいいラストではある。

ドイツ、フランス、スペインの合作だそうだけどとにかく美しい。
英語じゃなくてフランス語の方がより良かったのでは。

音楽も作品に合っていてエンディングの曲が結構好きだった。

原作が人気のようで作者は映画化はスタンリー・キューブリックかミロス・フォアマンでないとと拒否していたようだけどめちゃくちゃお金を払って権利をゲットしたらしい。

調香師のバルディーニはダスティン・ホフマンだし、美しい赤毛の女性ローラの父リシはアラン・リックマンと脇を支えるキャストも豪華。

エキストラは合計で5200人だとか。

香りって過去の経験と結びついたりすると思う。
石鹸とか洗濯物、雨の日、ぬいぐるみ、古い本とか好きな香りは沢山あるけど自分だったらキンモクセイの匂いが1番好き。最近香水が売り出されていた気がするから再現しなくて済む。
香りは目に見えないけど感じるって考えると不思議。

どんな映像でも美しさを感じさせてしまう不思議な作品。

ベン・ウィショーの勝利。



⚪以下ネタバレ



美しい女性の香りを手に入れ、完成させるために躊躇いもなく人を殺す。
死体は暴行や性的な行為をされないまま見つかるが衣服ははぎ取られ髪の毛は切られている。

冒頭では悪臭がしそうな魚市場。子供は血みどろでゴミには蛆が湧く。
孤児院で育てられ、青年になった頃に売られる。仕事で街に出かけた時に赤毛の女性香りに惑わされる。しかし、誤って殺してしまう。そこからは調香師バルディーニに弟子入りし、香水の街グラースへ旅立つ。そこでリシの娘であり美しい赤毛のローラに出会う。新たな仕事場で花と同じように実験してみるも匂いは抽出できず、同じ方法であるがやり方の違う冷浸法を試す。それは成功し、調香師に教えられた12本+1本の香水を集めるため奔走する。

最初に殺された赤毛の女性はグルヌイユが気づかれないように口を押さえている間に力加減を誤って殺してしまうのがゾワゾワする。しかも服を逃がして香りを堪能し自分の体に移そうとする。

調香師バルディーニの所では最初に蒸留のような形でバラから匂いの保存を学ぶんだけど、グルヌイユは全ての匂いがわかるからガラスや銅で実験して失敗し更には猫を蒸留の機械に入れてしまっていたのはキツい。

家がぐらついているのは伏線でグルヌイユがレシピを教えて出ていった後に崩れ去る展開は好きだった。

途中で洞窟によったんだけど匂いがないからみたいなセリフだったのにそのあとにすぐ匂いがするセリフになって洞窟は匂いがあるのかないのかよく分からなかった。訳し方の問題?

完成は香水は身に纏うと人々を魅了し、惑わせる。グルヌイユは死刑にはならず立ち去り自分が生まれたその場所で香水を自分にかけ、そこにいた人達に貪られ存在もなくなる。
体臭を持たない彼からの変化。

グルヌイユの存在がどこかキリストを模しているようだった。磔展開や人々の反応とかもそうだけど。
ラストの貪られたり、香水が地に滴るのもどこか宗教を感じる。
人々が魅了され愛を交し会う時に異性だけではなく同性があるのはある意味キリスト教に対しての皮肉になるだろうけど。

一つ気になったのはグルヌイユが離れると一緒にいた人が不幸になること。グルヌイユが幸せをもたらしていた訳ではないんだけど、グルヌイユの母親や孤児院の女性、皮なめし工場のボス、調香師、働いていた所の男性はみんなすぐに亡くなった。
グルヌイユは自分の目指している方向へ運命が進むけど。
最初の赤毛の女性はグルヌイユが誤って殺したから含めるか含めないのか。他にも女性が大量になくなっているけども。

魅了された人達の愛を交わすシーンをどうやってとったんだろうって思ったけど、ダンス劇団ラ・フラ・デルス・バウスの50人とベテランのタレント100人が群衆の中核を残りの600人のエキストラはその周りに配置されて撮られたらしい。規模が半端ない。

『レ・ミゼラブル』のような風景。

⚪メモ
⚫13本の香水について
調香師バルディーニがグルヌイユに話した物語。エジプト王の墓を開けた時に香った香水。12種類はわかったが残りの1種類は謎。

香水の香りは時間の経過と共に3段階に変化する。トップノート(第一印象)→ミドルノート(中心)→ラストノート(余韻)。

⚫香りと音階
化学者であり調香師だったピエスが46種類の香料を音程に当てはめたもの。
香階と呼ばれる。

⚪鑑賞
GYAO!で鑑賞(字幕)。

⚪パンフレット所持
鍋レモン

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