優しいアロエ

動くな、死ね、甦れ!の優しいアロエのレビュー・感想・評価

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
4.1
〈54歳、衝撃のカメラドール受賞作〉

 ストリートチルドレン出身で、無実の罪から30代を丸々牢獄で過ごしたというヴィターリー・カネフスキーが、本作を以て万丈の気を吐いた。54歳にてカメラドール受賞となった遅咲きの俊英である。

 そんなカネフスキーの“事実上の”長編処女作『動くな、死ね、甦れ!』は、戦後ソ連の田舎町の混沌を子ども目線に描いた『僕の村は戦場だった』『炎628』系譜の作品である。また、カネフスキーの壮絶な少年時代の回想録ともなっている。舞台となるのは、彼の生まれ故郷:炭鉱町スーチャン。老朽化したバラック小屋と雪が解け泥濘んだ大地が彼の原風景であるらしい。耳を澄ませば過酷な労働を強いられる日本人捕虜たちの炭坑節が聴こえてくる。

 さて、そんな炭鉱町にカネフスキーの投影と思しきワレルカ少年がいる。少年は「バレるまでが悪戯だ」と証明するが如く、悪質な悪戯を重ねてはきちんとバレて怒られる。その際、口を半開きにした何とも情けない表情が笑わせる。しかし、そこには母親への純粋な欲求があることがわかってくる。事実、少年の悪戯はトイレにイースト菌を投入してウンチを爆発させるなど、バレることを密かな目的としている節があり、警察に連絡されると喜ぶ。戦後の貧しく慌ただしい世相が大人から余裕を奪い、少年の行動を決めてしまっているのだ。

 そんな少年の底知れぬ反抗のエネルギーは、理不尽な人生を生き抜いてきたカネフスキーの反骨精神そのものでもあるだろう。OPのメタ演出からは「さぁ、俺の映画を観てくれよ」という歓びと気概が伝わってくる。少年の前に度々登場する“守護天使”ことガーリヤちゃんは、純真無垢というより世渡り上手な女の子といった印象だった。

 それにしてもタルコフスキー 、パラジャーノフ、セレブレンニコフ、そしてカネフスキーと、ロシア系の監督は国家の厳制に苦しめられた者が実に多い...。
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