8Niagara8

13回の新月のある年にの8Niagara8のレビュー・感想・評価

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)
5.0
アイデンティティの揺らぎ。
自分が人間社会が定める枠に収まらないという途轍もない不安感や絶望感に気づき、蝕まれる。
そうした不安感が延々と根底に沈澱し、段々と顔を出し支配する。
そうしたネガティヴなものに無関心のまま、蓋をしたまま生きていければどんなに楽なのか。エルヴィラは正に社会に生きる我々である。生々しくも愛おしい醜悪さが見せる生そのものは愚直で儚く美しくもある。
究極的には自己愛を見つける最後の日々だったのかと思いながら、しかし、それが結果として孤独を生み、自傷的であったことが悲しくて堪らない。そして、エルヴィラに周囲の人々が傍観すらしていなかったことも。人との感情的繋がりを求めて、その繋がりを一切否定される。
生と死のある種での無関係性を見せる。生の悪なる部分を断ち切るための自死では決してない。転じて生と死が結びつく。
冒頭からエルヴィラは死の匂いを漂わせ、そして痛みにも不感になっている。痛みこそ生きる証左であり、一方で生きることの否定なのかもしれない。生きることは本来享楽と結びつくものであり、そこが途切れたとき我々の自己存在は歪なものとなる。運命論的な影はありながら、エルヴィラは自らそれを断ち切ったとも言える。

妻子の愛を強く感じるとともに、それを阻むかのような限界も同時に。愛は自分を満たすものであり、破壊するものであり。
ダンス?行進?のシーンがめちゃくちゃ良かった。ザイツのビルでのあらゆるショット、構図が美しい。
あらゆるシーンが鮮烈な映像体験で、室内におけるショットのセンスは相変わらず見事。美術を含めてファスビンダーの美的センスは桁違いなことはここでも説得的である。
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