たく

ジャン・ルノワールのトニのたくのレビュー・感想・評価

ジャン・ルノワールのトニ(1935年製作の映画)
3.7
南仏の片田舎を舞台にした男女の痴情のもつれを描くジャン・ルノワール監督1935年作品。役者がほとんど素人とのことで、同じくキャストがほとんど素人の「揺れる大地」は、ヴィスコンティが本作で助監督を務めた影響を受けてそういうキャスティングにしたのかなと思った。ネオリアリズモの先駆的作品と言われる本作は、今観ると斬新さはあまり感じないけど、それは映像が自然に作られているからこそであり、今から90年も前の映画に違和感をほとんど感じないというのが逆に凄い。

イタリアから南仏に出稼ぎにやってきたトニには腐れ縁的な恋人のマリーがいて、彼女からの一方的な愛情表現にトニはうんざりしてる様子。そこへ友人の娘であるジョゼファにトニが恋をする展開となり、同じくジョゼファに目を付けてるならず者のアルベールが強引に言い寄って彼女をモノにしちゃうのがヤキモキさせられる。これを受けてトニがマリーとなし崩し的な結婚をするも、ジョゼファへの思いが断ち切れず、そのことに絶望したマリーが自殺行動に走るのが怖い。

結局マリーとの結婚生活が破綻したトニが、ジョゼファに対する一途な思いから彼女の煮え切らない振る舞いを全て許して受け入れようとするところに男の覚悟を見るものの、世の中そう上手くいかないというのがリアルだった。アルベールの横暴さに剛を煮やしたジョゼファがいとこと逃亡を図ろうとするあたりは、男女の痴情がもつれ過ぎてもう笑っちゃう。ここから終盤にかけてのノワール的な急展開で、一気に寒々してくる圧倒的な映像が怖かった。トニが橋を延々と逃げ走る長回しカットは凄かったね。
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