ミシンそば

シェフ イン ラブのミシンそばのレビュー・感想・評価

シェフ イン ラブ(1996年製作の映画)
3.6
CDケースのDVDなんて正直観るの初めてです。
去年入院前にポチったDVDですが、最初期のDVDだけあって画質は荒い。
でもDVDが最新の映像媒体であった時代を偲ぶには足る、得難い体験であったと思います。
画質的に料理の映えがあんまりなのだけは残念だけれど。

「ラディゴディーダー、グイグイグイ」と言う独特なリズムを刻む音楽を背景に、世界中を旅した雲のように奔放なフランス人シェフ(オペラ歌手って設定もある) パスカルが、グルジア(現ジョージア)で運命の女性と出逢ってその地に居付き、その地でレストランを開く。
ジョージア映画はピロスマニの伝記映画とパラジャーノフを数本観ただけだが(日本人が触れられるジョージア映画自体そんな量しかないが)、ロシア映画の陰湿さとも、東欧(バルカン半島)映画のような躁のようなテンションとも違う、何だか静かに燃え上がるような感覚をこちらに伝えてくるような作風って感じだ。

レストランが有名になったけど、時代が悪すぎたがゆえに共産主義に託けた略奪と不当な扱いは当然起きて、それでもその地を離れようとはしない。
「コミュニズムはいつか滅びるが、料理は滅びない」
彼のそのセリフには、誇りが内在しているのと同時に、疲労に近いような哀愁をも内包していると、邪推も出来てしまう。

そもそも、ずっとパスカルに因縁をつけてきて、しまいには共産陣営に加わってまで嫌がらせをしまくるジグムントがとてもしつこく、最終的にパスカルも、彼が愛したセシリアもこの男によって悲劇的な結末を迎える。
――その悲劇を、翌年の「タイタニック」を彷彿とさせるような現代からの俯瞰視を以て見つめる作風、と言うのがこの映画の全体像だが、物語が悲劇に終わっても現代に優しい真実は残る、そんな希望だけは最後に、爽やかにこちらに伝わってくる。
Blu-rayがもし仮に出たら、またポチるかもしれない。