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マルコヴィッチの穴のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

マルコヴィッチの穴(1999年製作の映画)
4.0
【他者になること】
『脳内ニューヨーク』が面白かった勢いでチャーリー・カウフマン脚本の『マルコヴィッチの穴』も再観した。これも中学生の頃に観て変な映画だと感じた作品だ。VTuber時代の今観ると面白い補助線になる作品のように思えた。

VTuberは自分の肉体と異なる他者を纏うことによって自己を拡張できる。男が女になったり、その逆も可能となる。そして他者との対話の中で文脈ができあがり、自己と設定、そしてリスナーとの創り上げてきたものが混ざって分離不可能な存在となる。『マルコヴィッチの穴』はVTuberなんて存在しない時代の作品でありながらもその特性を見事に突いている作品に思える。人形使いがメタファーとして作用し、俳優ジョン・マルコヴィッチを操っていく。彼になれる穴をビジネスとして運用する中で彼のアイデンティティを奪っていく過程は、二次創作問題にも通じるものがあるだろう。例えば、ずんだもんがそうだ。基本的な設定を踏襲しながら、多くの人が二次創作的にずんだもんを使用する。その中でカレーうどんによって虐待されるなどといった属性が付与され本来のアイデンティティが希薄なものとなっていく。そうした、他者の肉体を借りることによって他者のアイデンティティを剥奪する、もしくは上書きするような世界は今となっては決してファンタジーではない。チャーリー・カウフマンもまたクローネンバーグのように未来のライフスタイルを予言したような映画を作っていたといえよう。
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