MikiMickle

不思議惑星キン・ザ・ザのMikiMickleのレビュー・感想・評価

不思議惑星キン・ザ・ザ(1986年製作の映画)
4.1
監督はグルジア生まれのゲオルギー・ダネリア
脚本 レヴァス・ガブリーゼ
音楽 ギヤ・カンチェリ
ソ連のカルトSFコメディー映画。


町かどに立つみすぼらしい格好の男。
足は破れたストッキングのみ。彼は、自分は異星人であり、キン・ザ・ザ星雲から来たものの、帰れないと。
彼に話かけた技工士のウラジーミル(後に「おじさん」と呼ばれる)と学生ゲデバン(バイオリン弾けないけど「バイオリン弾き」)は、彼のスイッチを押した途端、砂漠の真っ只中に‼
何処かの砂漠に飛ばされたんだろうと家路を目指すも、空から吊り鐘型の飛行物が‼
中から出てきたのは、みすぼらしい格好の男二人。
ほっぺポンポンからの両手を広げたがに股スクワットで「クー‼」
からの、クー‼クー‼クー‼wドンタカのリズムにあわせてクー‼クー‼クー‼(笑) 衝撃的過ぎる


その二人は、ウエフ(チャトル人)とピー(パッツ人)。
クーしか言わない彼らは、おじさんの持ってるカッツェ(マッチ)に大興奮‼
二人はなんとか宇宙船に乗り込む。
初めは言葉が理解できなかったものの、考えている事が読める彼らは、突如ロシア語などを理解し話すようになる‼
どうやらここは、クロス番号215の惑星プリュク スパイラルのキン・ザ・ザ星雲。
そして、カッツェはとても貴重で、高額なチャトル(お金)と交換できるらしい。
二人は、カッツェと交換に、地球への帰還の取引をするのだが、
ここプリュク星や人々はかなり曲者‼(笑)
無事に地球に帰る事ができるのか?‼


この映画、1986年のもの。
1960年代からのアメリカでのSF映画の発展。『2001年宇宙の旅』などの良作から、ビデオの普及による量産があり、80年代の世界では、スターウォーズやエイリアンシリーズとかが人気となってる中での、
この映画のチープさ‼ 正直、86年のものとは思えない(笑) CGもなければ、壮大な世界観もない‼ドンパチもない‼
でも、全然安っぽくない♪
むしろ、前衛的。

これは当時のソビエト連邦で爆発的人気となり、みんな「クー‼」と言っていたとか‼

とてつもなく緩~く、シュールで、楽しい時間がすぎていく♡
変な気の抜けた音楽と、微妙な間と、変な世界観と、クーに…
「クー‼」がでる度に爆笑(笑)

まず、舞台となるプリュク星は、砂漠ばかりのディストピア。
そして、錆びた鉄‼ ペペラッツ(宇宙船)も、地下街も錆び錆び♪
錆び鉄好きとしてはウハウハする♪
『マッドマックス』を彷彿とさせます。

そして、プリュク星の風習と言語も、とても面白い♪
固有名詞を抜きにして、彼らは、クーとキューで全ての会話を成り立たせます。
キュー は公言可能な罵倒語。可愛い……
クー は残りの表現全部。
クー? クー‼

チャトル人はパッツァ人よりも身分が上で、パッツァはツァーク(鼻につける鈴)をつけます。その判断は機械を使って分別します。地球人はパッツァの方に分類されるので、牛みたいに鼻に鈴をつけなければなりません。
ウエフとピーは、大道芸人宇宙人です。でも、身分の低いパッツァは檻(針金で作ったのとか)に入って歌わなければいけません。踊る時だけは外にでます(笑)この踊り(笑)(地球人二人もヴァイオリンひきながら歌って好評をえます‼「マーマー、どうしよう~、マーマー、コートがないよ♪」って(笑)頭から離れないw

チャトルよりも上にエツィロップ(権力者。時に警察的役割)がいます。エツィロップに会ったら、持ち金全部奪われます。頭にちゃちいパトランプがついてます(笑) すごい武器も持ってるのでかないません。クーの挨拶をしないと大変な目にあってしまいますよ‼
チャトル(お金)とカッツェ(マッチ棒)をたくさんもってる人は、黄色のステテコをはけます。彼らには二回クーをしなければいけません‼
更に上だと赤ステテコ‼ 3回クーしてね‼
頂点に立つのはPJ様。ルツ(燃料)から水を作り出し、人々から絶大な人気をほこっています。でもね、ちっこい、白い服きた、パッツァの男性と鈴を鳴らしてクークーと愉快に戯れるおじちゃん(笑)
彼にクーしないと、エツィフ(囚人ボックス。銀色の人ひとりはいれるかってくらいの箱)に終身刑となりますよ‼

この訳のわからない世界の中で、地球人二人、奮闘します。
ずるいプリュク星の人たちは欲にかられて、騙したり、そんなんばっか(笑)
キュー‼‼

でも、二人、坦々と奮闘します‼
グラビツァーパ(加速機)をどうにか手に入れて、地球に帰ろうとするのです。おじさん(そうはいっても、プリュクの二人よりも若い)が、最初はいけすかないようなやつなのに、段々と素敵になってきて♪
的確な判断をしていくようになったり、心暖まる行動をしていきます。ダンディでかっこいい‼

ゲデバンとのコンビも最高なんですっ♪
デコボココンビだし、間抜けな事もするけど、1986年度ベストコンビ賞をあげたい‼‼ クー‼

さてさて、真面目な話をすれば、これは、かなり風刺の効いた映画です。
ソ連では、映画も全て国営でした。故に、共産主義を批判するようなものは全て抹殺されてきました。冷戦中などは、映画も、ほぼプロパガンダとして活用されてきました。
その規制が段々と緩む中、この映画は、お気楽ヘンテコの中に、資本主義への批判がまぎれています。最初に宇宙船が登場するところでも、おじさんが「資本主義者だ」と言います。
金と権力が全てのプリュク星の人たちも、その権現のように描かれます。故にすんなり規制をとおったのではないかなと。

しかし、実は、これには、共産主義への批判もこっそり含まれているのではと。
警察への賄賂・搾取・権力者のためだけの労力・権力者の間抜けさ。
そういったものへの反逆が爽快なのです。
資本主義批判の裏に共産主義批判が込められているのです。
だからこそ、動員を博したのではないかなと。
立ち寄る美しいアルファ星という星で、「人が幸せかどうかは本人が決める事だ」と。
右にならえを強制されてきたソ連の人々。良いと思われてる、いや、思わされてる世界への反逆精神をここでしっかりと感じました。

そして、忘れてならないのが差別問題。前述したように、確固たる差別が、あくまでのほほ~んと描かれているのですが、監督はグルジア出身。旧ソ連の中であった、小国と小国民たちへの差別。
かのスターリンはグルジア出身ですが、それは、あくまで、“ソビエト連邦”という、多国の集まりをまとめるため、そして、スターリンが共産主義をすすめてきたからであります。ロシア以外への小国への差別と支配は、ずっとあったものだと思います。それは、グルジアが独立した事からもわかりますよね。
ゲデバンはグルジア人。多国の言葉を使いこなせます。でも、この星でも地球でも、役立たずとされます。
この映画で、かなりおちゃらけながらも、際どく批判しているのだなと思います。

話をストーリーに戻ると、そのヘンテコで緩すぎる世界の中で、
墓場が“最後の息”という風船で描かれていたり、その世界観もやはりじんわりくるところもあるし、
人間の芯の優しさと友情も感じるような、でも、あくまで、その緩さと笑いを保っていたりと、とても不思議な感覚に包まれます。
とてつもない清々しさと心が暖まり、涙がでました‼ 笑顔とともに‼ あはははははと笑いながら泣きました(笑) でも、号泣 クー‼

未だにほっぺ2回叩いてクーって言っています。
MikiMickle

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