さわだにわか

戦慄のスパイ網のさわだにわかのレビュー・感想・評価

戦慄のスパイ網(1939年製作の映画)
4.0
これは面白いなー。ナチとの情報戦を描いたアメリカのプロパガンダ映画で、よくできたプロパガンダ映画はしばしば敵役の方が魅力的に見えてしまうように、諜報と宣伝を一体化した情報戦略を採用する宣伝省のヤバさ怖さがリアリスティックに描き出されてたいそう見物。

自らナチのスパイに志願した気弱な在米ナチ・シンパの男が徐々に行動を過激化させていく下りの心理描写が見事で、本職のスパイはあえて男をぞんざいに扱うことで功名心(と金銭欲)を刺激し機密情報にアクセスさせようとするのだが、そのコントロール術が役者の好演もあって実にプロって感じでこえーのです。

使い捨てスパイにされた男の視点で進むサスペンスフルな序盤から一転、中盤以降はエドワード・G・ロビンソン演じるFBI捜査官が芋づる式に在米スパイを挙げていく展開になる。オーストリア併合等々の時局解説がインサートされプロパガンダ色も強くなってくるが、ここで面白いのがあからさまにリーフェンシュタールの『意志の勝利』を意識している点で、ほとんどパロディのようでさえある演説シーンのトラッキングやカギ十字ワイプ(驚愕!)、万華鏡のようなコラージュはスタイリッシュなだけではなく、プロパガンダにはプロパガンダで対抗しようとする姿勢が見て取れる。

プロパガンダの恐怖を描いた映画がプロパガンダの手法を転用することでプロパガンダそのものになる皮肉。この二重三重のメタ構造はプロパガンダ映画ならではのものだろう。プロパガンダ・サスペンスの傑作。
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