Eike

暴走特急 シベリアン・エクスプレスのEikeのレビュー・感想・評価

3.0
2008年に公開されたサスペンス・スリラー映画ですがほとんど知られてない作品だという気がします。
監督のブラッド・アンダーソンは「セッション9」や「マシニスト」、「ザ・コール 緊急通報指令室」など、スリラー系のジャンル作一直線の中堅どころ。
本作は北京からモスクワに向かうシベリア大陸横断鉄道を舞台にアメリカ人夫婦(ウディ・ハレルソン&エミリー・モーティマー)が予期せぬ事態に巻き込まれる様を描いております。

何でもアンダーソン監督自身、シベリア横断鉄道に乗車した経験がおありだそうで、その時の経験踏まえ、加えて「見知らぬ乗客」「レディ・バニッシュ」「北北西に進路をとれ」「暴走機関車」そして「デッド・カーム」といった作品にインスパイアされてお話を練ったそうです。
確かに、物語の骨格は極寒の大地を走る大陸横断鉄道に乗車したあるカップルが苦境に陥る「巻き込まれ型サスペンス」になっております。
しかしいざ本編をみると印象がかなり違っているのが興味深くもあり、また幾ばくかのもどかしさも覚えました。

ネタバレは良くないので詳細は書きませんが、2枚看板とも言えるハレルソン氏とベン・キングスレー氏は実際の所一歩引いた位置で存在感を発揮。
事実上、本作はアメリカ人夫妻の妻、ジェシーを演じたモーティマー嬢が主役と言える内容。
約2時間の作品ですが、はっきりとサスペンス映画らしい体裁が整うのは全体の約半分を過ぎた辺りになってから。
そこに至るまでは主にジェシーと夫であるロイの関係の微妙な綾、そして車中で同室人となるアメリカ人女性アビーと彼女の恋人カルロスとの交流がメインとなっております。
この前半に後半のサスペンスの為のお膳立てがなされてはいるのですが思いの外ジェシーというヒロインの内面を前面に押し出した展開になっていて心理劇的な印象が強くなってます。
それもあって娯楽映画としてはちょっと地味過ぎる印象。
ただ、幸いなことに中国やロシアで行われたロケの効果や白い大地を行く列車の風景は十分に効果を挙げております。

物語は後半に至って急展開を見せ国際的な犯罪に巻き込まれたジェシーとロイが陥る危機とそこから脱するための苦闘が描かれてゆきます。
ただ、ラストに至るまで、やはりジェシーの心理面での葛藤が大きな要素を占めており、それもあってスペクタクルの要素が入ったクライマックスを含めても印象としてはあまりエンタティメントらしくなってません。
その部分をどう見るかによって本作への評価は分かれそうですね。

そういう意味で大陸横断鉄道という魅力的な舞台設定を用意した割に全体の印象は随分と小ぶりな作品です。
何となくアメリカ映画的じゃないなぁと思っていたら、本作はイギリス・スペイン・ドイツそしてリトアニアの合作だったようで妙に納得。
邦題に反して決して派手な作品ではありませんが設定は魅力的ですし演技陣はさすがに手堅いので期待しすぎなければ退屈することは無いと思います。
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