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ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.8
 ネブラスカ州オマハの陸上のトラック、スプリンクラーが散水するのどかな平日の朝、トラックを数周走った男はシャワーを浴び、鏡の前で身支度を整える。オマハにあるカーバー高校で12年、社会の教師を務めるジム・マキャリスター先生(マシュー・ブロデリック)は登校した直後、冷蔵庫の中にある賞味期限切れの食材を捨て始める。3年生のトレイシー(リース・ウィザースプーン)は勉学にも励み、学級活動もクラブ活動にも精を出す上昇志向の強い優等生女子学生。 彼女は今度行われる生徒会長の選挙に出馬した。 対抗はおらず、ほぼ当選確実の彼女に、マキャリスター先生はフットボール部の花形クオーターバックで、現在は脚の骨折治療中で活動できないポール(クリス・クライン)を対抗馬に担ぎ出すことにした。遡ること数ヶ月前、マキャリスターの同僚で親友のデイヴはトレイシーと道ならぬ恋に落ち、教師の職を辞した。デイヴの子供の名付け親にまでなった彼はどうしてもトレイシーのことが許せない。ある日の帰り、トレイシーに引き止められたマキャリスターは、彼女の「当選したら一緒の時間が長くなりますね」の声に心底ゾッとする。ペプシコーラを飲みながら、アメフト設定のポルノを観てストレスを発散しようとするが、田舎の学校の平凡な教師の不安は消えない。

 いかにも上昇志向が強いキャリア志向の女と、あまりにも平凡過ぎる男の対比。最初のシャワー場面は、まるでジョン・ヒューズの『フェリスはある朝突然に』の後日譚のようにも見える。マキャリスター先生が彼女を封じるために送った刺客は、セメント工場の社長の御曹司で、背が高いだけの無能な男。しかしそこに彼女の妹で養女のタミー(ジェシカ・キャンベル)が入り込んできたことで、選挙は混迷を極める。当初は選挙など興味がなかったが先生に絆され、突如世界を変えようと意欲的になる陽性バカの兄、その兄に親友を奪われ、怒り心頭な妹タミーの病巣。当選確実だった選挙に、対抗馬が2名現れたことで狼狽するトレイシーの自己顕示欲。映画は思春期の生徒たち各々のコンプレックスを露わにしながら、コンプレックスの肥大化した人間として、一番とち狂っているジム・マキャリスター先生の病巣を導き出す。妻トレイシーと結婚して9年、田舎の学校に勤めながら子供はおらず、一見幸せそうに見えながらどこか満たされない中年男の悲哀。学校を追われたデイブの妻を買い物に連れて行った時、つい出来心で呟いた「モーテルへ行かないか?」という言葉が彼の首を絞める。トレイシーを生徒会長にしてはならないという彼の不安は、男を決定的な異常行動に走らせる。ごく平凡な男にしか過ぎないマキャリスター先生の妄執は、現代ではパワハラやセクハラに認定されるレベルで笑うに笑えないが、登場人物全員の滑稽さがシニカルなアレクサンダー・ペインの長編デビュー作である。
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