円柱野郎

カラフルの円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

カラフル(2010年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

実に良くできたドラマでした。
「自分が前世で犯した罪」という話の仕掛けはすぐに察しは付いてしまうけれど、この映画はそういう謎解きが問題ではない。
まだ中学生だった「小林真」を自殺に追いやった現実を覆う灰色の世界を描き、そこに生きる人間の心が地に足ついて描かれてる。
ちょっとした仕草や表情などは、もはやアニメという記号で出来た世界を飛び越して、もはや“役者の芝居”を見せられている気分。
人間描写という意味では名作「火垂るの墓」に匹敵する完成度だと思う。

原恵一監督が「クレしん」や「河童のクゥ」で見せたものは、次第にリアルに近づいていたとはいえまだアニメという記号の中にいる人間だった。
でもこの映画ではとにかく背景が現実世界であり、そのことでもキャラクターを含めて“リアルの世界に生きた人間を描こう”という気概が感じられたね。

「人間にはいろんな色を持っている」というテーマ自体は説教クサいのだけど、「どうせ自分ではないのだから」と「小林真」の中にいる主人公が現実を俯瞰しているというのが話のミソ。
観客同様に主人公は「小林真」の周辺事情を知らないので、観客は主人公に同調しやすいという訳だ。
徐々に事情が明らかになるにつれ、一緒に嫌悪したり喜んだりして話に引き込まれていくんですな。
そしてそこの気付きに至るシーンではもうすっかり「小林真」になっている。

話は特に劇的な出来事があるわけではなく日常が進む。
むしろ「小林真の自殺」という劇的な出来事の後から始まる話なのだけど、そこに話の積み重ねがあるからこそ感動を生んでいるのでしょう。
特に食事については明確に人間の関係性を描いているのだけど、母親の手料理を拒否し続けた主人公がその料理に手を付けた終盤は本気で泣けました。

ただ、声優に関しては主人公がちょっと画からのイメージより声が高かったかも。
「河童のクゥ」でクゥを演じた冨澤風斗が演じているけど、リアル中学生という本物にこだわったのだろうけども…。
基本的にメインキャラは有名俳優・女優で固めていて制作委員会の影響を感じるところ。
宮崎あおいや麻生久美子は上手かったし高橋克実も悪くはないけど、他のキャラクターは本職の声優さんで聞きたかったかも。
そうそう、キャストでは藤原啓治、納谷六朗、矢島晶子、真柴摩利ら「クレしん」メンバーがチラッと声の出演をしているのは原作品らしくてニヤり。
円柱野郎

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