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カラフルのトラインのレビュー・感想・評価

カラフル(2010年製作の映画)
5.0
死んだ魂である主人公は、天界で抽選に当たり現世の他人に「ホームステイ修行」で転生することになる。相手は現世で自殺した男子で、学校ではいじめられ、親は母の不倫により崩壊している。男子としてクラスが嘲笑的にそれらの環境に対して背を向けて生きていくが、次第に周囲の環境を見直し始め、理解し、許し、考え直す中で、この男子を助けてやりたいように思い、修行に送り出した天使に懇願するのだが・・・と言った感じ。

主人公は、自身でもない少年の立場になって生活する第三者という、あるようでない設定のキャラであり、これらの障害に立ち向かう事を最初は拒否するが、天使はそれに取り合わない。正直に行って中々内容の根が深いし重いし暗いので、デリケートだと思う。ただこの作品について私が思うのは、こういった話題に対して清々しいほどに真っ向勝負を仕掛けていることだ。例えば、不倫した母親を簡単に許すことなど当然に出来ないし、なじる気持ちも当然に理解できる。ただ許しを得れれば良いのだという容易な考えではない。それは作品を見ていればすぐに分かることだろうと思う。他の問題についてもなんとなしに解決していくようなことはない。解決という簡単な言葉では片付かないこともある。RPGのようになぞれば解決する話なんて、現実にはないのだ。

何度もこのサイトでこの話をするが、キャッチな舞台装置として人の苦悩や、社会問題などを創作物では安易に取り上げることがあるが、大半はその名を借りただけのポーズであり、その当事者の気持にもその問題点にも解決にも何もかも語ることも表現することもない。そもそも安易な問題提起さえすれば、自身を高尚なものとするアクセサリーとしてしか考えては居ない人々の所業で、またそれを評価する人間たちも同様にそれを考えたりしているポーズが高尚な自分を演出するものだと信じているようだ。私はそれらを愚かの極みだと思っている。

で、この作品である。

ままならない現実は人間を否応なしに襲うし、耐え難い苦痛を伴うことは疑いようもない。皆実は幸せだがら死ぬな!なんて安い話じゃない。何でそう思うか、言葉にならない葛藤の末に、思い至った境地の果てに、生きる意味やその意志を示した。何度も云うが、真っ向勝負だ。この作品は知った顔したポーズではない。耐え難い苦悩を知っている。理解している。それでなお生きることの価値を説く。

小説版を読んでいないが情景を自分で思い描くのならこの作品は酷いシーンはよりひどく、ラストの鮮やかさは素晴らしい鮮やかさであったことだろう。でも、この映画の描き方はきっとそれに迫るはずだ。

辛い話もあるので、元気な時に見て欲しい。
きっと糧になるから。
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