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ボディ・スナッチャーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ボディ・スナッチャーズ(1993年製作の映画)
4.0
 ジャック・フィニイの小説『盗まれた街』の3度目の映画化1度目はドン・シーゲル、2度目はフィリップ・カウフマン。そして3度目にアベル・フェラーラの登場である。結論から言ってしまうと、シーゲル版よりは予算面でも演出面でも遥かに厳しい。このフェラーラ版はカウフマン版の後日談のような内容で、父親の仕事の都合で辺境の基地に移動するところから物語は始まる。夕闇迫る森林を俯瞰で撮影したショットから、徐々に雨に濡れた地面に移行する映像が素晴らしい。夜の闇の中で不気味に光る基地のライト、ガラス越しに映る月、そういう細かい部分にまで手を抜かないフェラーラらしさが随所に息づく。主人公たちの生きる世界と基地全体を覆う不穏な何かの感覚的なズレ。これをフェラーラは微妙に寝かせたカメラで表現する。街全体が不気味にまどろんでいる。外の世界の動く速度と自分たちの呼吸する速度のズレ。それがバスタブでうとうとした瞬間に、堰を切ったように漏れ出す。風呂場の通気口の穴からゆっくりと触手が近づいて来るシーンは、不謹慎だがあまりにも美しい。

 それ以上に、父親の背中をアルコールのついた手で撫でるシーンのフェティッシュな美しさは何度観てもやられる。そういう感覚にゆっくり訴えかけてくる演出こそが、フェラーラの真骨頂である。ゆったりとしたリズムを持った50分間とは一転し、ラストの35分間の性急さは、まるで別の映画になったようである。その機転となるのは、ある音の襲来であり、あまりにも恐ろしいその音が、活劇をスタートさせる。だからこそラスト・シーンのヘリコプターからの落下のCGの不味さが心残りだが、空撮シーンは問答無用に素晴らしい。軍医のフォレスト・ウィテカーが宇宙生物に囲まれ、自害して果てる場面の光と影の演出なんて、モノクロ時代の演出に真っ向勝負を挑んでいるかのようで、わかっているけど何度観ても胸が熱くなる。SFファンはラブストーリーを入れたことで緊張感がなくなったという声もあるけど、向かい合わせで人を殺したことがあると聞いた時の2人の表情なんて最高。フェラーラお得意のキリスト教的な場面をあえてどこにも入れず、正統派SFに徹した画面作り。まさに職人フェラーラの面目躍如たる傑作である。
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