優しいアロエ

ガートルード/ゲアトルーズの優しいアロエのレビュー・感想・評価

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〈すべてを払い除ける女の崇高な魂〉

 中年女性の崇高なる愛の追求を描いたC・T・ドライヤー最後の長編作品。採点不能。

 この映画、人物の視線がいっこうに噛み合わない。ソファやイスに腰かけては視線を交わさぬまま言葉を飛ばしあう。それは純愛を要求するゲアトルーズと彼女に理解を乞う男たちの永遠に修正されない齟齬を暗示する。また、ときに一方が立ち上がり説得を試みるが、もう一方は動じないという演出も多い。頑なな視線と座った姿勢が堅固な精神を象徴し、思わず相手に視線をやり詰め寄ってしまうような干渉的行為が心の揺らぎを想わせる。

 彼らの先には何が見えていたのか。視線の先まで想像させるのがドライヤーだ。『裁かるるジャンヌ』では、ジャンヌ・ダルクの強烈な眼の先に審問官ではなく神を想わせた。本作においても、視線は人物の頑なな信条を想起させるだろう。「神」や「宗教」が絡んだ物語ではないが、高邁で硬骨なゲアトルーズの精神はあのジャンヌとも近いものがある。BD同梱のブックレットにおける小松弘の言葉を借りれば、「広義の宗教性をもっている」と云えるかもしれない。

 結局のところ、ゲアトルーズの身体および人生は、この宗教的精神を検証する容器にすぎないのかもしれない。本作では、これまでのドライヤー作品を通底した“超自然的な瞬間”が鳴りを潜めている。それが返って、普遍的な世界の住人にすら宗教的精神が宿ることを示しているように思われる。
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