コキジ

ミュンヘンのコキジのレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
4.0
1972年のミュンヘン五輪開催中、”黒い5月”と名乗るパレスチナゲリラが選手村に侵入し、イスラエル選手団を襲撃。
11人のイスラエル選手が殺害される。
冒頭ではこの様子を、実際のニュース映像を交えながら、しかし簡潔に終わらせる。

この映画はこの事件そのものより、このあとの、イスラエル側の<報復劇>に視点をあてています。
よってこの”黒い五月事件”の詳細は、前半と後半に、カットバックのように挿入されている上、事件自体は「皆は周知の事」というあまり親切ではない前提としての扱いなので(自分含め日本人はこの事件を殆ど知りませんが米や欧州では有名な事件だそうです)、下調べしておかなければ、ちょっと、いやかなり混乱します。

しかし映画を通しての緊迫感は途切れる事がなく、流石にスピルバーグが監督しているだけあって一見の価値はあります。

主人公は、イスラエル機密情報機関により編成された<報復団>のリーダー・アヴナー。
彼は4人の仲間と共に、”黒い五月”の首謀者11人の暗殺を命じられる。

「暗殺」物で思い出すのはリュック・ベンソンの『レオン』や『二キータ』といった「カッコいいスナイパー」ですが、
実際は殺す側も殺される側も生身の人間ですから、その点スピルバーグは生臭く、時にグロテスクに描いています。

初めての射殺では、「撃つタイミング」すら解らず躊躇する。
情報を買い、その情報を買った相手が何者かも解らない。
始めは無防備だったテロの首謀者達も、自分達が狙われている事を知り、情報を売っていた組織を抱え込み、話は複雑化して行く。
暗殺の失敗が実はCIAの介入の仕業だとは知らず、仲間が1人、また1人と殺されて、ようやくいつの間にか「狙う側」から「狙われる側」になっている事に気付く。
アヴナーはベッドのマットレスを剥がし、電話をバラバラに分解し、テレビの裏蓋を取って、クローゼットで眠る。
そう、ベッドや電話やテレビは彼らが今まで爆弾を仕掛け、幾人も殺してきた所だから。

<復讐>は、また新たな<復讐>を生む。
復讐を続けている限り、その連鎖から放たれる事はない、という教訓。

エンターテイメントとしても成立している点が凄い。
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