はる

タイム・オブ・ザ・ウルフのはるのレビュー・感想・評価

タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003年製作の映画)
4.2
押し潰されそうなほど過酷な中で生きてゆく人々を描いた作品。
イザベルユペールら4人家族が別荘へとやってくるところから始まります。荷物を運び込もうとすると、見知らぬ男が部屋にいて、銃を構えているんですよ。男の後ろにはその家族らしき女と子供がいて、どうやら留守の間に勝手に忍び込んでいたようです。男は食料などの物資を要求したかと思えば、4人家族のうち父親を殺してしまうんですよ。冒頭からあまりにハードモードな展開でかなり前のめりになりました。残された3人は食料などを奪われた挙句、露頭に迷うことになります。まず3人は警察の元へ向かうのですが、今はそんな場合ではないと何故か門前払い。だんだんと分かってくるのですが、どうやらこの世界では戦争なのか、天災なのか、いずれにせよ大きな何かが起こり文明が崩壊の一途を辿っているようです。3人は流れ流れて数人が生活しているコロニーのような場所にたどり着き見知らぬ人々と集団生活を送ることになります。最初は10人程度だったコロニーも次第に人が増えていき最終的におよそ50人以上?の大所帯となり生活も過酷になっていきます。ここでとにかくツラいのは文化的な生活を送っていたであろう人々が原始的な生活を強いられている点で、おばあさんがなけなしのミルクを飲んでいるシーンには胸が締め付けられるようでした。全くの他人同士が集団生活をしているのですから、いざこざは絶えず起こり、目を伏せたくなるような瞬間も登場し、ほとんど希望など見えない。状況が良くなる予兆をこれっぽちも感じられない生活は大人はもちろん、子供達にとってあまりにも厳し過ぎると思いました。このリアルな物語は安易に自分に置き換えて考えてしまうことが出来るので、とても恐ろしいんですよね。恵まれたこの日本に暮らしてる私たちだっていつこうなるやもしれない。ラストの車窓は希望であることを願いたい。少年にも絶望に飲み込まれるなとハネケ監督の優しさも感じる作品でした。
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