ちろる

日本の悲劇のちろるのレビュー・感想・評価

日本の悲劇(1953年製作の映画)
4.4
こんなに、こんなに苦しくて辛い映画があっていいものなのか、この思いがいつまでもこびりつきそうな壮絶な衝撃作。
今まで私が観てきた木下恵介監督の描く戦後の日本のストーリーは、割とドラマティックで微かな救いを見出せたりしたのだけど、どうだろうこれは本当にショッキングで観終わってしばらくは言葉が出ない。
どんなに苦労して、身を削りに削ってプライドを捨てても。
強者からは指先1つでなにもかもを奪われる。
身1つで子どもを社会に出ても恥ずかしくないかたちに必死で育てても、一人前になったとたんにつまはじきにされて、
「お母さんがお前を産んだことを忘れないでくれ。」
とだけが精一杯。
何度も転んで、傷だらけになっても悲観しなかったのはただ子どもが居たから。
娘、息子を責めることができるのならいいけれど、そこは流石の木下恵介監督。
じっくりと私たちに見せつける彼らの辛い回想シーンがもう言葉を失わせる。

生きる希望を失った哀れな母親がただの女になっただけの瞬間。
熱海の駅で呆然と立ち尽くしてこの老いた手の中には結局何も残っていないと知った女はもうすでに絶望でも苦しみでもなくただの空虚感だけだったのだろう。

戦争が悪いのか、戦後の悲劇の波に巻き込まれた女が悪いのか、それとも人間に元々ある欲が悪いのか。
世間のあまりの冷たさがグサグサと胸に刺さって、やはり人間は自分のために生きた方がいいのかもなんて悲しい結論がよぎってしまう。

流しでギターを奏でる佐田啓二の歌だけが彼女を包む温かさの塊のような気がして、あれが殺伐とした空気の中のほんの些細な救いなのかな、、
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