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アリゾナのバロンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アリゾナのバロン(1950年製作の映画)
3.4
 公有地管理局に勤めるジェームズ・リーヴィスは、スペインの土地台帳を改ざんし、男爵ペラルタを偽称する。彼は土地譲渡をめぐる史上最大の不動産詐欺をでっち上げた稀代のペテン師だった。サミュエル・フラーは実在した詐欺師の人生に魅せられ、1930年代からこの事件の顛末のリサーチを始めた。今作はデビュー作『地獄への挑戦』同様に19世紀の西武開拓者時代を逞しく生きた男のロマンの物語である。リーヴィスはこのアメリカという国の建国の歴史に着目し、アリゾナという土地が、どこの国からどこの国へと行き渡ったのか?その譲渡の歴史を知っていたのである。主人公は実際にスペイン国王からペラルタなる人物に宛てた架空の土地譲渡書を偽造する。

彼はそこからソフィアになるべき架空の人物を探しでっち上げる。それが後に妻にまでなったソフィアである。彼女は幼少の頃から両親がおらず、ただ一人の孤児としてアカの他人に育てられる。リーヴィスが彼女の所在をようやく突き止めた出会いの場面では大雨が降っている。雷、大雨というアリゾナではあり得ないような規格外の天候を用意し、リーヴィスの罪の歴史が始まるのである。後に具体的な証拠となる墓標を掘り、彼は自分の詐欺行為に説得力を持たせるためだけに単身、スペインへと渡る。言うまでもなく16世紀に北米大陸はヨーロッパ諸国の実効支配を受けていた。まずイタリアが新大陸を発見し、その後イギリスやフランス、スペインなどが入植する。その後18世紀や19世紀に起こったのが西武開拓者時代であり、その後の南北戦争である。今作の主人公リーヴィスは自らが今いる土地のルーツとなったスペイン人を偽装し、嘘の家系を描くことで、19世紀のアリゾナに住む人々の権利を剥奪するのだが、そこにはソフィアの両親の血が先住民のものであるというシニカルな展開が待っている。

アメリカ政府はリーヴィスに数百万ドルの和解案を飲ませようとするのだが、その手には乗らない。あくまで偽装した妻の手にアリゾナ州全土を握らせることで、莫大な財産を得ようという腹積りなのだ。町の住民にどんなに嫌われようが、政府の人間に白い目で見られようが、自らの欲望のために突き進む主人公のジェームズ・リーヴィスは、処女作『地獄への挑戦』のボブとあまりにも共通点が多い。そんな無敵に見えた男を突き崩すきっかけとなるのは、妻ソフィアへの真実の愛である。彼女はおそらくリーヴィスとはふた回り以上年が離れているにもかかわらず、常に利害関係よりも原理・原則をしっかり守る道徳者としてペテン師のリーヴィスに対峙する。その姿に稀代のペテン師は良心の呵責に迫られ、自分の中にあるただ一つの正しさが徐々に押し出されていくことになる。

また彼の欺瞞を暴くもう一人の人物は、前作『地獄への挑戦』で賞金首ジェシー・ジェイムズを演じた文書偽造鑑定家ジョン・グリフであろう。DNA鑑定もなかった西武開拓者時代に、彼は実際にスペインを訪れ、やがて偽造した文書のインクの成分でリーヴィスの嘘を見抜くのである。このインクが真実を暴くという主題に、新聞記者出身で事件が専門だったサミュエル・フラーが魅了されたのは言うまでもない。稀代のペテン師と文書偽造鑑定のプロとの静かな心理戦こそがこのB級プログラム・ピクチュアの花となるのである。ラスト7分の民衆の暴動からはKKKのリンチのような殺伐とした恐怖を感じ、バッド・エンドも予想出来たが、フラーはリーヴィスという男にあえてハッピー・エンドを用意する。奇しくもソフィアと初めて会った時と同じアリゾナには珍しい雨が降っているのである。今作はもともと『アリゾナ伯爵』の題名で上映されていた作品である。DVDタイトルの『アリゾナのバロン』よりも元の『アリゾナ伯爵』の方が様になっている。
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