櫻イミト

戦争と人間 第一部 運命の序曲の櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.5
太平洋戦争勃発以前の昭和初期の激動を、架空の新興財閥”伍代家”の人々を通して描く。全3部合計9時間20分の大作。原作は「人間の條件」(1959~1961)の五味川純平。特撮美術はウルトラマンのデザイナー成田亨。キネマ旬報ベストテン第2位。

第一部 運命の序曲(昭和3~7年前後)
日本が統治する満州。事業進出した伍代家は軍部(関東軍)との癒着を計る。利害を見据える中国人たち。抗日活動を続ける朝鮮人たち。そして、それぞれの生き方を探る伍代家の老若男女。混沌は遂に満州事変へと。。。

「人間の條件」とはまるで色合いの違う群像ドラマ。当時の歴史について短い解説は入るが、自分が疎すぎて殆ど付いていけず調べながら鑑賞。楽しむ余裕はなかったが、あまり映画で取り上げられない戦前の昭和を学ぶ貴重な機会になった。

本作の戦争映画としてのオリジナリティは、主役がブルジョア一家ということ。モダンな暮らしぶりや人間性は、他の戦争映画で観た人々と同じ時代を生きているようには見えない程。それだけに現代の自分に近づけて観ることが出来た。

印象的だったのは伍代家の四兄妹たちの会話。
自社で起こったストライキ弾圧を目撃した中学生の次男(中村勘九郎)が、ブルジョアの父を強く批判すると
長女(浅丘ルリ子)
「人道主義者が一人ぐらい出てもいいわね、この家にも」
長男(高橋悦史)
「冗談言うなっ!赤にかぶれたらどうするっ」

ここで示された各自の個性が、映画全体の軸となっていく。
戦前日本社会では「人道主義者」=「赤」という認識だったことも大きなポイント。

続く2部3部は登場人物が絞られエンターテイメント性がぐっと強まるので、個人的には本作は壮大な予習偏という印象だった。

■メモ 満州統治と太平洋戦争への流れ
1905(明38)日露戦争に勝利
      関東州(満州)の租借権を得る
1919(大8)関東州に関東軍を設置
1920(大9)満州在住朝鮮人による独立ゲリラ活発化
1928(昭3)張作霖爆殺事件
1930(昭5)昭和恐慌発生・農村不況が深刻化
1931(昭6)満州事変勃発・日本からの移民政策活発化
1932(昭7)満州国建国
1933(昭8)日本が国際連盟を脱退
1936(昭11)二・二六事件
1937(昭12)日中戦争勃発
1938(昭13)国家総動員法成立
1939(昭14)ノモンハン(満蒙国境)事件
      満洲国軍&日本軍×蒙古人民軍&ソビエト赤軍
1941(昭16)太平洋戦争勃発

※蒋介石
中国国民党のリーダー。中華民国を孫文が建国後、国内が割れ各地で軍閥が誕生、それらを滅ぼして中国統一を目指し北伐を進める。
戦後は共産党との戦いに敗れ台湾に逃げ、現在の台湾政府と中国政府の対立の始まりに。

※張作霖
満州に支配力を有していた軍閥の1人。日本から支援を受けていたが、徐々に日本を裏切るような態度を示したため関東軍によって爆殺される。息子は張学良。
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