櫻イミト

ヴァリエテの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ヴァリエテ(1925年製作の映画)
3.5
ドイツ表現主義の主要作に数えられる一本。第4回キネマ旬報ベストテン第2位。撮影:カール・フロイント。美術は「黒水仙」(1946)などのアルフレッド・ジュネ。「ヴァリエテ」とは「曲芸団」の意味。

※日本で流通している本編は前半30分ほどがカットされたアメリカ公開版。物語も改変されているので注意。

殺人犯ハラー(エミール・ヤニングス)は刑務所で身の上を語りはじめる・・・かつて空中ブランコのスターだった彼は妻子を抱え場末のショークラブで食いつないでいた。それがある日、孤児の娘マリーにすっかり夢中になり家出、二人でベルリンの曲芸団に入る。ペアの空中ブランコは好評を博すが。。。

1920年代のベルリンの街、カーニバル興行や曲芸場の様子が素晴らしい映像で切り取られていて個人的には好みの一本だった。

物語の系統としては後のヤニングス出演作「嘆きの天使」(1930)に連なる “女に溺れた中年男の破滅話”。退廃的なムードも含め同作の原点と言える。序盤の見世物ストリップショーに漂う只ならぬ場末感は、デヴィッド・リンチ監督のモノクロ作品に大きな影響を与えていそう。

そして何よりも秀でているのは空中ブランコシーンの撮影で、俯瞰、仰角、主観とあらゆる視点から空中ブランコの危険な魅力を捉えている。編集も完璧で、個人的に力を入れて観てきているサーカス映画の中でもベストな仕上がりだった。さらにその間に、表現主義的な幻想カットを挿入してくるので目が釘付けになった。ドクロがデザインされたコスチュームも好み。

終盤のエミール・ヤニングスの憎しみの表情が怖い。まるでリアル大魔神のような怒りの顔で、もし「巨人ゴーレム」にキャスティングしていたら傑作になったと思われる。

シナリオはひねりなくストレートに進むので少々物足りないが、全編に渡ってとにかく映像が秀でている。表現主義の魅力を愛憎ドラマで楽しめる、退廃エンターテイメントの傑作。


※参考:当時の映画MEMO
1924年(大正12)
最後の人
ニーベルンゲン
グリード
殴られる彼奴(あいつ)
裏町の怪老窟
嘆きのピエロ

1925年(大正13)
戦艦ポチョムキン
オペラの怪人
メリー・ウイドー
チャップリンの黄金狂時代
ロイドの人気者
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