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狂い咲きサンダーロードのnetfilmsのレビュー・感想・評価

狂い咲きサンダーロード(1980年製作の映画)
4.3
 福岡から単身東京に出て来た青年が、たかだか20歳そこそこで、卒業制作だと嘘を付いて日大の機材をふんだんに借りてこんな映画を撮ってしまった。2023年現在では俄かに信じられない話だが、今では神話のような本当の話である。70年代後半のPUNKやNEW WAVEの初期衝動丸出しの映像と言えば良いだろうか。カメラを持った時点で走り出すしかないと言わんばかりに初期衝動丸出しの走り屋たちはスピードの刹那に己の命を賭ける。市民に愛される暴走族になろうという心底狂った掛け声が持て囃され、スピードと暴力の快楽に走った暴走族たちはいま、解体されようとしている。それを快く思わない集団がいる。魔墓呂死特攻隊長の仁(山田辰夫)は彼らの身勝手な解体の決定に怒りに打ち震える。俺たちはお前らの決定に納得などしてないよと。恋人の典子(北原美智子)と一緒になり堅気になろうとする健(南条弘二)の制止を振り切り、男たちは風になる。今回のトークショーでは信じられないことに石井監督は当時は単車乗りではなく、一台もバイクを持ってなかったらしいが、人づてでバイカー集団を集め、『マッド・マックス』のような走り屋の映画を作り出した。ハッタリ失くしてこんな奇跡のような映画は作れないが、当時の若者たちの途方もない熱量が結実し、こんな途方もない映画が完成した。

 物語はどこまでも単純で純粋だ。魔墓呂死特攻隊は解体を望む人々にたちまち恨まれ、排斥の憂き目に遭う。魑魅魍魎の地獄絵図から彼を救ったのは国防挺身隊で隊長を務めている魔墓呂死初代リーダーの剛(小林稔侍)だった。自称右翼の男は若者たちの怒りを一手に集め、正しい方向に導こうとする。仁の部下たちを巧妙に搦め取りながら、彼が最も欲する戦力は仁そのものであり、一度は彼の軍門に下るフリをした仁を幹部として迎え入れるリップ・サービスを見せるものの、仁は居心地の悪いこの環境から自由を求めて離脱する。泉谷しげるやPANTA&HALやTHE MODSを音楽で迎え入れた時点で大勝利と言わんばかりに、彼らの音楽が血みどろの世界に絶妙にシンクロする。組織は異端を嫌うし、日本という国家においては出る杭は打たれる運命だ。右翼からも暴走族からも見放された仁の姿はひたすら哀れに見えるが、彼の復讐劇は静かに幕が開く。いったいどこから登場したと言わんばかりの指名手配犯・マッドボンバー(吉原正皓)や麻薬密売人のジャンキー小学生・小太郎(大森直人)のインパクト!! 今や日本を代表する撮影監督になった笠松則通氏による大胆な構図やカメラの動きも無軌道な暴力に拍車を掛ける。人間の表情はその時代を克明に現すとは今回のトークショーでの石井監督の言葉だが、まさにあの時代にしか成し得なかった奇跡のような傑作。
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