一人旅

エンジェル・アット・マイ・テーブルの一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
第47回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞。
ジェーン・カンピオン監督作。

ニュージーランドの女性作家ジャネット・フレイムの半生を描いた伝記ドラマ。
理不尽な仕打ちと悲しみに支配された人生の中で、やがて己の生き方と確固たる自信を勝ち取っていくまでの過程を描いている。
ニュージーランドの明るく瑞々しい映像とは裏腹に、ジャネットの人生を次々と襲う悲しい出来事。ジャネットは他者に感情を表現することが苦手な女性で、コミュニケーション能力の極端な欠如が災いを呼んでしまうのだ。心身ともに健康なんだ!なんて心の中で訴えていても、他者に対して無力なジャネットは精神病院に入れられてしまう。病院内でジャネットが受ける残酷な仕打ちに心が痛む。ジャネットの人生は他者に支配されている。自身の人生を他者から取り戻すためには確固たる意思を持ち、他者にその意思を伝える必要があるのだ。ジャネットの“詩や小説を書く”という行為は自身の意思を伝えるための唯一の方法である。圧倒的に足りない他者とのコミュニケーションを、詩や小説という媒体を介して補填しているのだ。ジャネットが一心不乱に書き続ける姿に、辛い現実から逃げ出したいという逃避願望は感じさせない。それ以上に、他者と同じような生き方を選択できない状況下で、どうしたら自分らしく生きていけるのか、考えた末にジャネットが導き出した答えが“書き続けること”なのだ。
音楽に合わせてついつい踊り出してしまうジャネットの姿や、母国ニュージーランドの煌びやかな海と緑の風景が感動的だ。
一人の女性が心の殻を打ち破り自信を勝ち取っていく姿を描いている点では、同監督の傑作『ピアノ・レッスン』と通じるものがある。
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