デニロ

稲妻のデニロのレビュー・感想・評価

稲妻(1967年製作の映画)
3.5
1967年製作公開。原作林芙美子。脚色堀江英雄。監督大庭秀雄。

1952年大映製作版を昔観ていますが内容は忘却の彼方。複雑な親子関係の物語でした。

望月優子は、幸薄いのか多情なのかよく分からぬが結婚しては子を生し別れを繰り広げている。それぞれ父親の違う一男三女を産み、今はブラブラしている長男柳沢真一と三女倍賞千恵子と暮らす。長女稲垣美穂子は自称実業家の穂積隆信に嫁いでいるのだが夫の無能ぶりに辟易している。二女浜木綿子も下町の傘屋に嫁いで苦しい家計をやりくりしている。

そんな環境のですもの、姉妹中唯一高校を卒業している倍賞千恵子はわたしこんな生活に甘んじられないわ、と、この人間関係からの脱出を目論みます。ですが、やりての長女稲垣美穂子は縁談を持ち込んできます。なんとなれば、倍賞千恵子を見初めたのは稲垣美穂子の商売のパートナー藤田まこと。彼の精力的な仕事ぶりに稲垣美穂子は、いずれ、商売だけでなく身もこころも掠め取られるに疑いはありません。知らぬは亭主ばかりなり。二女浜木綿子は、姉稲垣美穂子とは違い控えめで夫の帰りの遅いことに胸を痛めたりする健気な女性です。ある夜、遅く帰らぬ夫の事故死の連絡が警察から届きます。気が動転して葬式でもただ泣くばかり。そしてある日衝撃の事実を突きつけられます。何と死んだ夫が世話をしていた宗方奈美が乳飲み子を連れて現れます。これはあの人の子供です。保険金があったら情けをかけてください。そ、そんな。とうろたえる姉を助けようと、倍賞千恵子は、あなたも妻のある人を愛するにはそれだけの覚悟があるんじゃないの、と言い放つ。そうなんです。倍賞千恵子は、結婚を約束した男から、倍賞千恵子の複雑な事情を家が許さぬ、という理由で切り捨てられたばかりなのでした。人を冷たく切り捨てることの免疫が既に備わっているのです。それにしても下町の小さな傘屋さんの主人が女性を囲うことが出来たなんて、どんな国だったんだ。

ここから先はやり手の男藤田まことの独壇場です。本籍は両国のパン屋で、他に様々な事業を展開していきます。温泉旅館、トルコ風呂と性産業に次々投資します。そして、寡婦となった浜木綿子にくよくよしても始まらない、温泉旅館を手伝ってよと甘い水を注いであげると、何のことはない、ふたりのために温泉マークはあるの、という関係になってしまいます。これで長女、二女と関係を持ち三女を嫁に欲しいと図々しいにもほどのある男が誕生します。ついには倍賞千恵子の目の前で、藤田まことを取り合う稲垣美穂子と浜木綿子のキャットファイトが繰り広げられます。

大島渚の松竹時代の師匠である大庭秀雄。野坂昭如殴打事件で記憶に残る”大島渚・小山明子結婚30周年記念パーティー”で大島渚にそのように紹介され壇上に上がり、/大島君が小山君と結婚するという時、私は言ってやりました。作る映画はヌーベルバーグいいけれども、家庭は大船調でいきたまえ/と祝辞を述べたそうだけど、本作は、ささやかな笑いや悲しみ、日常を描いた大船調とは全然違う。かなり辛めの作品です。

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